ビレーの朝はゆっくりと始まった。ラーンはいつものように寝坊し、イシェが慌てて起こした。昨日も遺跡から持ち帰った小さな宝石が、市場で思ったより安値だったためだ。
「また無駄な夢を見たのか？」イシェはラーンの頭を叩きながら言った。「あの宝石を売って、食料を買いに行こうって言ったのは誰だっけ？」
ラーンはあくびをしながら、「あー、そうだったね」と曖昧に答えた。彼はイシェの冷静な態度にはいつも感心していたが、自分にはそんな計画性はない。いつか大穴を見つけたら、こんな苦労もいらないだろうと考えていた。
ビレーの広場には、いつも通りの人出があった。テルヘルはすでにそこにいて、不機嫌そうな顔で腕を組んでいた。「遅刻だ」と彼女は冷たく言った。「今日は時間がないぞ」。
三人は今日も遺跡に向かった。ビレーから少し離れた場所にある、崩れかけた石造りの建物だ。入口には奇妙なシンボルが刻まれており、地元では「呪われた遺跡」と呼ばれていた。
テルヘルは地図を広げ、「ここが目標だ」と指さした。「内部の構造は複雑だが、目的の遺物はここに存在するはずだ」。彼女は鋭い視線でラーンとイシェを見据えた。「今回は危険な場所になるだろう。覚悟しておく必要がある」。
遺跡内は薄暗く、湿った空気が漂っていた。足元には石が崩れ落ち、天井からは埃が降ってくる。ラーンの足取りは重かった。彼はいつもより緊張していた。イシェは慎重に前を歩き、時折振り返りラーンの様子を伺う。テルヘルは先頭を歩き、地図を確認しながら進んでいた。
彼らは深い迷路のような通路を進み、やがて大きな部屋に出た。部屋の中央には、巨大な石棺が置かれていた。石棺の表面には複雑な文様が刻まれており、不気味な光を放っていた。
「ここだ」テルヘルは声に張り詰めたものを感じさせる。「目的の遺物は石棺の中に眠っているはずだ」。
ラーンは心臓が激しく鼓動していた。彼は興奮と不安を感じていた。イシェは落ち着いて石棺に近づき、表面を触れてみた。「何か奇妙なエネルギーを感じます」と彼女は言った。
その時、石棺から光が放たれ、部屋全体を満たした。三人は目を細めて光を遮ろうとしたが、その光は彼らの意識を徐々に奪い始めた。
「これは...」イシェは言葉につまった。
ラーンは意識が朦朧とする中、かすかにテルヘルの声を聞いた。「計画通りだ...」。
そして、全てが暗闇に包まれた。