ビレーの酒場の一角で、ラーンが豪快に笑う。イシェが眉間に皺を寄せながら帳簿を眺めている横顔を見つつ、ラーンの背後からテルヘルが近づいてくる。
「情報が入ったわ、ラーン。」
テルヘルは低く、しかし力強い声で言った。ラーンの笑い声は途絶え、イシェも帳簿を閉じ、二人はテルヘルの言葉を待つ。
「ヴォルダンの軍勢が動き出したようだ。東の国境に集結しているという噂だ。」
ラーンの顔色が一瞬曇る。イシェは冷静な声で尋ねる。
「目的は?」
「情報源は確実ではないが、どうやら遺跡の調査らしい。」テルヘルは眉をひそめる。「ヴォルダンはあの遺跡を狙っている可能性が高い。」
ラーンは拳を握りしめた。「あの遺跡…あの伝説の…」
イシェがラーンの言葉を遮る。「落ち着きなさい。まだ憶測の域を出ない。確認が必要だ。」
テルヘルは頷く。「だが、念のため警戒を強めるべきだろう。ヴォルダンが動き出すと、周辺の状況も変わる可能性がある。特にビレーは…」
「ビレーは…?」ラーンが不安そうに尋ねる。
テルヘルはゆっくりと答える。「ヴォルダンにとってビレーは重要な拠点になるかもしれない。あの遺跡へのアクセスルートを確保するためだ。」
ラーンの表情が硬化する。イシェも真剣な眼差しでテルヘルを見つめる。三人は沈黙の中で、それぞれの思いを抱き続ける。ビレーの街並み、そしてその背後にある広大な世界、全てが大きく揺れ動こうとしていることを、彼らは肌で感じていた。
「よし、準備を始めるか。」ラーンは静かに言った。イシェは頷き、テルヘルも剣を握りしめた。三人は互いに力を合わせる決意をし、立ち上がった。
ビレーの運命は、今まさに彼らの手に委ねられていた。