ラーンが石畳の上で足を滑らせると、イシェに「またか」と呆れられた。ビレーの街はずれの遺跡への道はいつも荒れている。
「よし、今日はあの崩れた塔から入るぞ!」
ラーンの言葉にイシェはため息をついた。「あの塔は危険だって何度も言っただろう。天井が半分崩壊してるし、床も不安定だ」
「大丈夫、大丈夫!俺が先に進んで安全を確認するから」
ラーンは豪快に笑って塔へ入っていった。イシェはテルヘルに視線を向けた。彼女は冷静な表情で地図を広げていた。「彼には何も言わない方がいい」とテルヘルは言った。「彼は自分の信念に従うだけだ」
イシェは頷くしかなかった。ラーンの無鉄砲さは、時にイシェを不安にさせるが、彼の熱い情熱もまた魅力だった。
塔の中は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。ラーンは懐中電灯の光を揺らしながら、崩れた階段を登っていく。イシェとテルヘルは後を追うようにゆっくりと進んだ。
「何か感じる?」
テルヘルが突然尋ねた。イシェは首を横に振った。「特に何もない」
しかし、イシェの背筋にぞっとするような感覚が走った。まるで、誰かの視線を感じているようだった。
塔の一番上へ着くと、ラーンが何かを発見した様子で喜んでいる。
「見てくれ!こんなところに!」
彼は床の一部を指さしていた。そこには、複雑な模様が刻まれた石板が埋め込まれていた。
「これは…?」
イシェが近づいて石板を覗き込んだ。その瞬間、強烈な光が塔に充満した。
そして、次の瞬間、彼らは別の場所に転送された。
そこは広大な砂漠だった。青い空の下、どこまでも続く砂丘が広がっている。
「ここは…」
イシェは言葉を失った。ラーンの顔も蒼白になっていた。テルヘルだけが冷静に状況を把握していたようだ。
「これは…伝送装置だ」と彼女は言った。「遺跡の中に隠された伝送装置を使って別の場所に移動させられた」
イシェは恐怖で体が震えた。彼らはどこへ飛ばされてきたのか。そして、ここからどうすれば脱出できるのか。全く分からなかった。