ビレーの酒場「三叉路」で、ラーンが豪快に笑う。イシェは眉間にしわを寄せながら彼の話を聞いていた。「また遺跡で宝を見つけたって? いつもの大嘘だろう?」
ラーンはむにゃむにゃと否定する。イシェの視線が冷たくなった。ラーンの口から「宝」という言葉が出るときは、たいてい嘘つきだった。実際、彼が持ち帰るものは錆びた剣や割れた壺ばかりだった。
そこにテルヘルが静かに席に着いた。「二人は準備はいいか?」
「ああ、準備万端だ」
イシェが答える。ラーンの無茶な行動に付き合わされているような気分になることが多かったが、テルヘルの依頼を引き受けた以上、責任を果たさなければならなかった。
「今回はヴォルダンとの国境に近い遺跡だ。危険な場所だが、報酬は十分だろう」
テルヘルはそう言うと、テーブルの上に地図を広げた。イシェは地図に目を落とす。そこには、複雑な地形と記号がびっしりと描かれていた。
ラーンは地図を指さし、興奮気味に言った。「ここだ! 伝説の黄金の王冠が眠っている遺跡だぞ!」
イシェはため息をつきながら、テルヘルの視線を確かめた。「伝言は?」
テルヘルは少しだけ口角を上げた。イシェには、彼女の表情の変化がわずかにしか見えなかったが、それでも何かを察することができた。
「今回は直接的に伝える必要はない」とテルヘルは言った。「遺跡の中で、必要なものを見つけられるはずだ」
イシェは何も言わなかった。ラーンが興奮して遺跡へ出発しようとするのを待っていた。彼の背中には、いつも通りの無邪気さと、どこか寂しげな影が重なっているように見えた。イシェは彼を少しだけ哀れに思ったが、同時に自分自身もこの奇妙な関係の中に囚われていることに気づいた。