ビレーの酒場にはいつもよりざわめきが大きかった。ラーンがイシェとテーブルに腰を下ろすと、常連のおっさんが話しかけてきた。「おい、二人が遺跡から戻ってきたって聞いたぞ。今回は何か収穫でもあったのか?」
イシェは小さく微笑んで否定し、ラーンはいつものように大げさなジェスチャーで「今日は少しだけ珍しい石を見つけたんだ」と豪語した。実際には、今日も何も見つからなかった。
「珍しい石か。ビレーの遺跡は枯渇したと言われるが、まだ何か眠っているのかもしれないな」
おっさんの言葉に、イシェは小さくため息をついた。最近ビレー周辺の遺跡では収穫が乏しく、ラーンの豪語も嘘ではないものの、彼にはいつもより余裕がないように見えた。
「あの噂を聞いたか?」とイシェはラーンに耳打ちした。「ヴォルダンから来たという探索隊が、東の遺跡群を探しているらしい」
ラーンの顔色が少し曇った。「ヴォルダンか…」。彼は剣を握りしめ、テーブルを軽く叩いた。「あの国が目をつけたなら、確かに危険だぞ…」
イシェはラーンの様子を見て、心配になった。
「でも、僕たちはビレーで十分なはずだよ」とラーンは言った。「いつか大穴を見つけるんだ! それまで、この街を守り続けていけばいいんだ!」
イシェはラーンの言葉を聞いて、少しだけ安心した。しかし、彼女は彼の強がりだと感じていた。ヴォルダンが近づいてくるという噂を聞いた時、イシェはビレーの平和な日々が終わることを予感した。それはまるで、遠くで聞こえる戦いの鼓動のようだった。