ビレーの朝はいつも薄霧に包まれていた。ラーンはイシェを起こすため、いつものように窓際に立って深く息を吸い込んだ。「よし、今日は大穴が見つかるぞ!」
イシェは眠りぼそりと「またか…」と呟きながら起き上がった。ラーンの無鉄砲な楽観主義にはいつも呆れていたが、彼と一緒に遺跡を探検することに喜びを感じていたのも事実だった。彼らの住むビレーは、かつて栄えた古代文明の遺跡に囲まれた辺境の地だった。住民たちは、その遺跡から貴重な遺物や資源を採掘して生計を立てていた。
「今日はテルヘルさんが来てくれるんだろ?」イシェが言いかけると、ラーンはニヤリと笑った。「ああ、あの女には大穴が見つかる匂いを感じるらしいぞ。きっと今日の探索で何か面白いものが見つかるさ!」
テルヘルは、黒曜石のような瞳を持つ謎の女性だった。ヴォルダンという大国との戦いで全てを失ったという過去を秘めていた。彼女はラーンとイシェに高額な日当と引き換えに遺跡探検を依頼し、見つけた遺物の独占を要求する。
「準備はいいか?」テルヘルが鋭い視線で二人を見据えた。「今日は特別な場所へ行く。ビレーの古老たちが語り継ぐ『禁断の遺跡』だ」
イシェは少し不安を感じた。ビレーには、古代文明に関する様々な言い伝えがあった。その中でも『禁断の遺跡』は特に恐れられていた。そこは、強力な呪いがかけられており、近づいた者は必ず命を落とすと伝えられていたのだ。
「大丈夫だ、イシェ。テルヘルさんが一緒ならなんとかなるさ!」ラーンは自信満々に言ったが、イシェは彼の言葉に安心できずにいた。
遺跡の入り口には、石造りの門があり、その上に奇妙な模様が刻まれていた。伝統的なビレーの装飾とは異なる、どこか不気味な雰囲気を漂わせていた。
テルヘルは慎重に門を開け、「さあ、中に入ろう」とラーンとイシェを先導した。内部には、薄暗い通路が広がっていた。壁には古代文字が刻まれており、イシェは伝統的な文字とは異なる、見慣れない書体に見覚えがあるような気がした。
「ここは一体…」イシェが呟くと、テルヘルは静かに言った。「この遺跡は、かつての文明の秘密を握っている。そして、その秘密は我々が探す『大穴』に繋がる」
ラーンは興奮気味に、「よし、行こうぜ!」と叫び、先頭を切って遺跡の中へと進んでいった。イシェは不安を感じながらも、テルヘルとラーンの後ろをついていった。彼らの前に広がっていく未知の世界、そしてそこに隠された真実。それは、ビレーの伝統的な歴史観を覆すような、大きな秘密を秘めていた。