「よし、今回はあの洞窟だ!」ラーンが目を輝かせ地図を指さした。イシェは眉間に皺を寄せた。「また危険な場所かい? ラーン、あの洞窟には伝承で言う『魔物の棲む場所』って書いてあったじゃないか」
「そんなの作り話だろう!それに、テルヘルが言ってたように、あの洞窟には古代の宝物が眠ってるかもしれないんだぞ!」
ラーンの言葉にイシェはため息をついた。テルヘルはいつも冷静沈着な表情で「情報」を垂れ流す。その情報は時に真実であり、時に虚偽であった。だが、彼女が目的のために嘘をつくことはなかった。イシェは、テルヘルの言葉を信じている一方で、ラーンの無謀さに巻き込まれることに恐怖を感じていた。
ビレーの住人たちは、かつてこの地に栄えた古代文明について伝承を語り継いでいる。遺跡に眠る財宝や、そこに潜む危険な存在の話が、世代を超えて受け継がれてきたのだ。イシェは、これらの伝承を真実に近づけるために、ラーンと共に遺跡を探索する意味を見出していた。
「よし、準備はいいか?」
テルヘルが鋭い目で二人を見据えた。「今回は特に気を付けてほしい。ヴォルダンとの戦争の影が伸びている。この遺跡に何かあれば、ヴォルダンの耳に届くかもしれない」
ラーンの顔色が一瞬曇った。ヴォルダンは、彼にとって遠い存在だった。だが、テルヘルの言葉から、戦いの脅威が自分たちに迫っていることを実感した。イシェもまた、自分の安全よりも、ラーンやテルヘルを守るために何かできることがあるのではないかと考えていた。
洞窟の入り口に近づくにつれ、冷たい風が吹きつけてきた。イシェは背筋が寒くなるような感覚を覚えた。伝承では、この洞窟には魔物だけでなく、古代文明の守護者と呼ばれる存在が眠っているとされていた。イシェは、自分の直感を信じ、ラーンの無謀さを思い留まらせようと決意した。
「ラーン、ちょっと待て!」
だが、ラーンの目はすでに洞窟の奥に光を向け、冒険心を燃やしていた。イシェは、ラーンの背中を見て、もう後戻りはできないと感じた。