「おい、イシェ、まだ待ってるのか?」ラーンの声がビレーの街外れから響き渡った。イシェは小さくため息をつきながら、最後の確認を終えた。
「もう少し待ってよ。準備はいいんだから、急がなくても…」
ラーンは既に遺跡の入り口に立っていた。「よし、行こう!今日は必ず何か見つかるぞ!」と、彼は興奮気味に叫んだ。イシェは苦笑しながら彼を追いかけた。
いつも通りの光景だった。ラーンの無謀な行動にイシェが必死に後を追いかける。しかし、今回は少し違った。テルヘルが加わってから、遺跡探索は以前とは一味違った緊張感を持つようになった。
テルヘルは目的のためなら手段を選ばないタイプだ。イシェは彼女の冷酷さに恐怖を感じながらも、同時に彼女に惹かれるものがあった。
遺跡内部は薄暗く、湿った空気で満たされていた。ラーンの足音が石畳を響かせ、イシェは彼に少し遅れて続く。テルヘルは二人の後ろを静かに進み、時折鋭い視線で周囲を警戒していた。
「ここは以前にも来たことがあったな…」ラーンが呟いた。「あの時は何も見つからなかったけど…」
「今回は違うかもよ」テルヘルが言った。「この遺跡には何か秘密があるはずだ」
イシェは緊張した空気を肌で感じていた。テルヘルが何を知っているのか、彼女は何を目的にしているのか。イシェにはまだ理解できない部分が多かった。
彼らは深い洞窟へと進んでいった。壁には謎の文字が刻まれており、床には奇妙な模様が描かれていた。ラーンは興奮気味に壁を叩きながら「これは何だ!?」と叫んだ。イシェは彼の行動を制止しようとしたが、その時、突然、地面が崩れ始めた。
「ひっ!」イシェはバランスを崩し、床に転げ落ちた。ラーンの顔色が一変した。「イシェ!」彼は慌てて彼女の手を掴もうとしたが、すでに遅かった。
崩れた地面から大量の砂塵が噴き出し、三人は視界を失った。
「イシェ!」ラーンの叫び声が風に乗ってこだました。
イシェは息が詰まりそうになりながら、必死に手を伸ばした。しかし、周りには何もない。「ラーン…テルヘル…」彼女はかすれた声で呟いた。
砂塵が少しずつ落ち着いていく中、イシェは自分の状況を理解した。彼女は崩れ落ちた床の下敷きになっている。動こうとしても無駄だ。
「誰か…助けて…」彼女は小さな声で叫んだ。しかし、返ってくるのは自分の声だけだった。
イシェは絶望感に襲われた。その時、かすかにラーンの声が聞こえた。「イシェ!大丈夫か!」
ラーンが必死に瓦礫を動かしている音が聞こえてきた。希望の光が見えた瞬間だった。
「待て…もう少し…」
イシェは力を振り絞って叫んだ。
そして、彼女は彼らが自分のもとに駆けつけてくるのを待つために、目を閉じた。
その時、イシェは思った。「休憩」が必要だったんだ。この状況から逃れるためにも、少し休んで、心を落ち着かせなければいけないんだと。