「おい、イシェ、待てよ！」ラーンの足音が石畳の上で重々しく響く。イシェは振り返らずに歩き続けた。「今日はもういいだろう。日が暮れる前にビレーに戻らないと」
イシェの言葉には言い訳が込められていた。実際、遺跡の奥深くまで入ろうとしたラーンの熱意を考えると、イシェには不安が募るばかりだった。だが、ラーンは彼女の言葉を無視し、さらに奥へと進んでいった。
「ほら、あの隙間を見てみろ！もしかしたら何かあるかも！」
ラーンの指さす方向は崩れた石壁の隙間。イシェには何も見えない。「ラーン、本当に無駄な時間だ」と呟いたが、ラーンの興奮を冷やすことはできなかった。
テルヘルは冷静に状況を見極めていた。ラーンの熱意は理解できるが、彼の行動は計画性がない。イシェの慎重さは好ましいが、彼女の臆病さは時に邪魔になる。二人は互いに理解し合っていないように見えた。
「いいだろう、少しだけ見てやろう」とイシェは言った。「でも、すぐに引き上げるぞ！」ラーンは嬉しそうに頷き、隙間へ近づいていった。テルヘルは二人の様子をじっと見つめていた。彼らの仲の悪さは明らかだった。
石壁の隙間からわずかに光が差し込んでいた。ラーンは興奮気味にその光に向かって手を伸ばした。その時、壁の奥から不気味な音が響き渡り、埃が舞い上がった。ラーンの顔色が変わった。イシェも驚いて後ずさった。
「何だ…？」ラーンの声は震えていた。テルヘルは引き抜いた短剣を握りしめ、警戒した。
「何かいるぞ…」イシェの声はかすれていた。三人は互いに恐怖を感じながら、石壁の隙間を見つめていた。その時、隙間から何かが飛び出してきた。それは巨大な虫のような怪物だった。