「よし、今日はあの崩れかけの塔だ。噂では地下に何かあるらしいぞ」ラーンが目を輝かせた。イシェはため息をつきながらも地図を広げた。「また無計画な…でも、確かにあの塔は調査価値があるかもね。テルヘルはどう思う?」
テルヘルは静かに剣を研ぎながら言った。「塔の構造は複雑だ。罠や魔獣がいる可能性も高い。慎重に進むべきだ」彼女の鋭い視線はラーンとイシェの間を交錯し、まるで二人の動きを計算しているかのようだった。
ビレーの酒場で出会ったテルヘルは、ヴォルダンへの復讐を果たすため、遺跡から何か強力な武器や情報を見つけ出そうとしていた。ラーンとイシェは彼女の目的を知らず、高額の日当に目がくらんで雇われたのだ。
「よし、準備はいいぞ!」ラーンの豪快な声が響き渡る。イシェは深呼吸をして懐から小さな瓶を取り出した。中には青い液体が満たされ、その香りはどこか懐かしい。
「これは?」ラーンが不思議そうに近づくと、イシェは小さく頷いた。「昔、祖母が教えてくれたもの。魔獣の毒を一時的に抑える効果があるらしい」
塔の入口は崩れ落ち、内部は薄暗い闇に包まれていた。ラーンの懐中電灯の光が壁に反射し、埃っぽい空気を掻き立てる。イシェは後ろからラーンを見つめながら、足元を注意深く確認した。
「何かいるぞ…」ラーンの声が震える。前方には巨大な蜘蛛の姿が、糸を張り巡らせて待ち構えていた。その目は不気味に赤く光り、鋭い牙がむき出しになっている。
「逃げろ!」イシェが叫んだ瞬間、ラーンは剣を抜き、蜘蛛に突進した。激しい戦いが始まった。蜘蛛の糸はラーンの動きを阻害し、鋭い牙は彼の腕を深く切り裂いた。イシェは小さな瓶から青い液体を出し、ラーンに投げた。
「早く飲み込め!」イシェの叫び声が響き渡る中、ラーンは必死に蜘蛛と戦った。テルヘルは静かに後方から状況を見極めていた。彼女の視線は常にラーンとイシェの間を交錯し、まるで二人の動きを計算しているかのようだった。
「これで倒せる!」ラーンの剣が蜘蛛の頭に命中した瞬間、青い液体が発効した。蜘蛛は苦しみながら地面に倒れ込んだ。
「よし、これで安全だ…」ラーンの顔には汗が流れ落ちている。イシェはラーンの傷を急いで治療し始めた。テルヘルは少しだけ微笑んだ。
「よくやった。だが、これはまだ序章にすぎない」彼女の言葉は冷酷なほど冷静だった。