ビレーの酒場にはいつもより騒がしい。ラーンとイシェは、テーブルの端でひっそりと一杯の酒を傾けていた。大穴の話ばかりする連中は、いつまでたっても大穴には辿り着かないだろうな、とイシェは内心思った。ラーンの豪快な笑い声が響き渡るたびに、彼女はため息をつく。
「おい、イシェ。どうした?顔色が悪いぞ」
ラーンが心配そうに声をかけた。イシェは苦笑いした。「何もないわ、ただ少し疲れただけよ」。
その時、店のドアが開いた。黒衣の女性が堂々と入ってきた。背の高い彼女の顔は影に隠れており、正体を見極めることができない。彼女は、まるで仮面をかぶっているように見えた。
「ラーン、イシェ、待ってたな」
その声が響き渡ると、店内の喧騒は一瞬で hush となった。女性は、テーブルに優雅に腰掛けた。「今日はいい仕事があるわ」
ラーンの目は輝き始めた。「どんな仕事だ?」
「ヴォルダン領にある遺跡を探検するんだ」女性はゆっくりと答えた。「報酬は高額だ。危険も伴うが、君たちなら大丈夫だろう」。
イシェは不安を感じた。ヴォルダン領といえば、エンノル連合との国境付近に位置し、常に緊張状態にあった。危険な場所だと彼女は知っていた。ラーンは興奮気味に頷いたが、イシェは躊躇した。「なぜ、私たちを選んだのですか?」
女性は微笑んだ。「君たちには、ある特殊な能力があるようだ」とだけ言った。彼女の言葉は謎めいていた。イシェは、その視線から何かを察知した。まるで、彼女が見えない仮面の裏側に何かを隠しているように感じた。
「まあいいわ、詳細はお任せしますよ」ラーンがにやりと笑った。「大穴への道を開いてくれるかもしれませんね!」
イシェは、彼の楽観的な態度に呆れながらも、どこか安心していた。しかし、彼女はどこかで、この仕事が彼らを深い闇へと引きずり込むのではないかと不安を感じていた。