「よし、今回はあの崩れかけた塔だ!」ラーンの声が、ビレーの朝の喧騒をかき消すように響いた。イシェはため息をついた。「またあの塔か? ラーン、そこの遺跡はすでに何年も前に調査済みだよ。何も残っていないって話じゃないか」
「いや、イシェ。あの遺跡には秘密があるんだ! 何かの誤解で、本当の価値を見逃しているに違いない」ラーンの目は輝いていた。「ほら、テルヘルさんもそう言ってただろ?」
テルヘルは薄暗い tavern の片隅で、一杯の酒を傾けながら静かに頷いた。「確かに、あの塔は興味深い。記録にはない地下空間の存在を示唆する記述がある」彼女の口調は冷静だが、瞳に燃える炎は隠せない。
「よし!じゃあ準備だ!」ラーンの興奮は伝染し、イシェも渋々ながらも動き始めた。三人は遺跡へと向かい、塔の入り口にたどり着いた時、冷たい風が吹き抜けてきた。その風はまるで警告のように、彼らの背筋を凍らせた。
塔内は薄暗く、埃が積もり、朽ち果てた石畳が足元を覆っていた。ラーンが先頭に立って進むにつれ、イシェは不吉な予感に襲われた。何かがおかしい。まるで、この塔が彼らを待ち受けているかのようだ。
「待て、ラーン!」イシェの声はかすれていた。しかし、ラーンの足取りは止まらない。「ほら、ここだ!」彼は崩れた壁の隙間を指さした。その隙間から、薄暗い光が漏れている。
「何だあれ?」テルヘルが近づき、光の方へ視線を向けると、息を呑んだ。「これは…遺物か?」彼女の瞳に驚きと欲望が渦巻いていた。
ラーンは興奮気味に壁の隙間をこじ開け始めた。すると、そこからは、石棺が姿を現した。その棺には、複雑な模様が刻まれ、古代の言語で何か書かれているようだった。
「これは大発見だ!」ラーンは叫んだ。イシェは不安を感じながらも、棺の蓋を開けるように促された。テルヘルは冷静に状況を判断し、剣を抜いて周囲を見回した。
棺の蓋がゆっくりと開かれると、そこには眠る少女の姿があった。長い黒髪が肩にかかり、白い肌はまるで雪のように白く輝いていた。そして、少女の胸の上には、不思議な模様が刻まれた宝石が埋め込まれていた。
「美しい…」ラーンは息を呑んだ。イシェも思わず言葉を失った。しかし、テルヘルは何かを感じ取ったようで、眉間に皺を寄せた。「これは… 」
その時、少女の目はゆっくりと開き、空虚な瞳で三人に視線を向けた。そして、彼女はかすれた声で呟いた。「…助けて…」
その瞬間、塔全体が激しく揺れ始めた。石壁が崩れ落ち、天井から瓦礫が雨のように降り注いだ。イシェは恐怖で体が硬直したが、ラーンはすぐに彼女を引っ張り上げた。
「逃げろ!」ラーンの叫び声と共に、三人は塔からの脱出を試みた。しかし、少女の呪いを受けた塔は崩壊を始めており、彼らの前に立ちはだかる瓦礫の山を乗り越えることは容易ではなかった。
イシェは足を滑らせ、バランスを失った。その時、ラーンが彼女の手を掴み、必死に引っ張った。二人はなんとか崩れ落ちる床から逃れることができたが、その直後、塔の奥深くから、少女の悲鳴のような叫び声が響き渡り、三人の耳に突き刺さった。
「あれは…一体何だったんだ…」イシェは震える声で呟いた。ラーンは表情を曇らせ、テルヘルは沈黙を守りながら、崩壊する塔を見つめていた。少女の呪い、そしてその背後にある真実。三人は、この事件が彼らの運命を変えるきっかけになることを知る由もなかった。
そして、しばらくして、イシェは奇妙なことに気づいた。ラーンの傷が治り始めていたのだ。彼は、あの少女に触れた時、仮死状態になっていたのだ。