ラーンの豪快な笑い声が、遺跡の奥深くまで響き渡った。崩れかけた石壁に囲まれた空間の中、彼は興奮した様子で巨大な石棺を指さした。
「ほら、イシェ！見てみろ！今回は大穴だな！」
イシェは眉間に皺を寄せながら、石棺に刻まれた複雑な文様を注意深く観察していた。「まだ分からないよ、ラーン。ただの古い棺かもしれないし…」
「そんなはずないだろ！あのヴォルダンが怖がるほどの大遺跡だって言ってたんだぞ！この中に眠っているのはきっと…！」
ラーンの想像力は暴走し始めた。黄金で輝く王冠、宝石をちりばめた剣、そして無限の富…。彼の脳裏には、ビレーの貧しい生活から抜け出し、豪華な屋敷に住む自分たちの姿が鮮やかに描かれた。
イシェはそんなラーンの様子を見て、小さくため息をついた。彼を信じるのは、いつもイシェ自身も不思議だった。確かにラーンには人を惹きつける魅力があるし、彼の行動力と勇気は尊敬に値する。だが、その一方で彼の無謀さと短絡さもイシェを不安にさせた。
その時、テルヘルが鋭い眼光で石棺を見つめながら言った。「この文様…ヴォルダン軍の紋章に似ているぞ。もしかしたら…」
彼女の言葉にラーンの興奮は一気に冷めた。ヴォルダン。その名前を聞いただけでラーンの顔色が変わるのは、イシェも知っていた。彼は幼い頃にヴォルダン兵に両親を奪われ、それ以来、復讐の炎を抱き続けている。
「何なんだよ…またヴォルダンか…」
ラーンの声には、いつもの元気さがなく、どこか虚ろな響きがあった。イシェは彼の手を軽く握りしめ、励まそうとしたが、言葉は見つからない。
テルヘルは冷静に状況を判断した。「今は引き返すべきだ。この遺跡はヴォルダンにとって重要な場所かもしれない。我々には手を出せない。」
ラーンの顔色はさらに曇った。夢破れたことへの落胆と、ヴォルダンの影が彼を苦しめるのを感じ取っていた。イシェは深くため息をついた。いつも通りの明るい笑顔を取り戻すには、一体どれほどの時間がかかるのだろう。そして、この遺跡で出会った真実とは…。
彼らは遺跡からゆっくりと後退していった。背後では、巨大な石棺が暗闇に佇んでいた。その中に眠るものは何か。それは誰にも知れぬまま、永遠に封印された。