「よし、今回はあの洞窟だ!」
ラーンが地図を広げ、興奮気味に指さした場所をイシェが眉間にしわ寄せた。
「また危険な場所? ラーン、あの洞窟は以前から噂があるぞ。罠だらけで、中に入ったら二度と出てこないって」
「そんなことないよ! 大穴が見つかるかもしれないんだろ? イシェも夢見てるだろ?」
ラーンの瞳には、いつも通りの輝きがあった。イシェはため息をついた。ラーンを止められるわけもなく、結局ついていくしかなかった。
テルヘルは静かに二人を見つめていた。彼女の目的は遺跡の遺物ではなかった。ヴォルダンへの復讐を果たすために、必要な情報が遺跡に眠っていると考えていた。そのためにラーンとイシェを利用しているのだ。
三人はビレーを出発し、山道を登り始めた。道中、ラーンの軽率な行動にイシェは何度も危うい思いをした。しかし、ラーンの豪快さに巻き込まれるうちに、イシェ自身も少しだけ冒険心を刺激されていたのかもしれない。
洞窟の入り口に着くと、薄暗い空気が流れ出してきた。ラーンは剣を構え、意気揚々と中へ入った。イシェが後ろから続く時、何か冷たいものが彼女の足首に巻き付いたことに気づいた。
「あれ? 何だ?」
イシェは足を引っ張り上げた瞬間、足首に絡まっていた黒い触手が伸びてきた。その触手は洞窟の奥へとつながり、イシェをゆっくりと引きずっていくように動いている。
「ラーン! 」
イシェの叫び声は洞窟の中に響き渡った。ラーンの顔色が変わった瞬間、洞窟の奥から不気味な光が溢れ出した。そして、そこに姿を現したのは、巨大な影だった。
「何だあれは…!」
ラーンが剣を振り上げた時、影は彼に襲いかかってきた。イシェは恐怖で目を閉じた。その時、彼女の耳元で冷たい声が響いた。
「逃げろ…」
テルヘルがイシェの腕を掴み、洞窟から引きずり出した。振り返ると、ラーンが巨大な影と激しい戦いを繰り広げている姿が見えた。
「ラーン!」
イシェは叫び声を上げたが、すでに遅かった。巨大な影に飲み込まれるようにラーンの姿は消えてしまった。テルヘルはイシェを連れて洞窟を後にした。