ビレーの喧騒が遠ざかり、遺跡の入り口へと続く崩れた石畳の上を進んでいくラーンとイシェの背中に、テルヘルは冷ややかな視線を向けていた。二人が遺跡探査を日課とするようにしているのは、単なる冒険心だけではない。彼らの行動には、彼女が見る限りでは理解できない何かがある。まるで、彼ら自身も自分たちが何を求めているのかよく知らないかのようだった。
「今回はあの深層部にある遺物だ」
テルヘルがそう告げると、ラーンはいつものように無邪気に笑った。イシェは眉間に皺を寄せ、地図を広げて確認している。彼らは互いに言葉にする必要もなく、それぞれの役割を理解していた。しかし、その背後には、テルヘルには見せない何かがあった。
遺跡の奥深くへと進むにつれて、空気が重くなり、不気味な静けさが支配する。壁一面に描かれた古代の文字は、まるで警告のように彼らの心を締め付けようとする。ラーンの軽率さにイシェが冷静に対応し、テルヘルの知識が道を開いていく。三人の動きは、まるで精密に調整された機械のようだった。
だが、その歯車が狂う時が来た。
突然、崩れ落ちた天井から大量の石が落下し、ラーンを直撃した。イシェは咄嗟にラーンの体を庇い、共に瓦礫の下敷きになった。
「ラーン！ イシェ！」
テルヘルは声を張り上げて叫んだ。しかし、二人の姿は見えない。
埃が立ち込める中、テルヘルは冷静さを保とうと努めた。彼女は必死に瓦礫をどかし、二人の安否を確認しようとした。その時、彼女の視界に何かが映った。
それは、ラーンの胸元から覗き見える、奇妙な模様の刻まれた石 Pendantだった。
まるで、誰かの目撃を予感させるかのような、不吉な光を放っていた。