ビレーの薄暗い酒場で、ラーンが豪快に笑い声をあげた。「よし、今日は大穴だ!あの遺跡の奥深くには、きっと何かすごいのが眠ってるぞ!」
イシェはため息をつきながら、彼の肩を軽く叩いた。「またそんなこと言うなよ、ラーン。いつも大穴、大穴って言って、結局は錆びた剣か謎の石ころばかり見つけるんだろ?」
ラーンの顔色が一瞬曇ったが、すぐにいつもの笑顔に戻った。「今回は違う!だってさ、テルヘルが言ってたじゃないか。あの遺跡には、ある仕掛けがあるって!」
「仕掛け…?」イシェは眉をひそめた。テルヘルはいつも冷静沈着で、言葉を選びながら話す女性だ。彼女が言うなら、ただの噂話ではないはずだ。
「そう、仕掛けだ!もしかしたら、宝を守るためのトラップかもしれないし…」ラーンの目は輝き始めた。「でも、それを乗り越えれば、きっと莫大な財宝が待っているはずだ!」
イシェは諦めたように肩を落とした。「わかったわかった。じゃあ、いつ出発するんだ?」
次の日、三人は遺跡へと向かった。遺跡の入り口には、崩れかけた石碑が立っていた。そこに刻まれた文字は、すでにほとんど読めなくなっていた。
テルヘルは石碑に手を当て、目を閉じた。「ここには確かに仕掛けがある…。」彼女は呟いた。「この遺跡は、何者かが作ったものではない。自然の一部なのだ。」
ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。テルヘルの言葉に、何か不吉な予感がしたのだ。
遺跡の中を進んでいくと、道が二手に分かれた。左右の壁には、奇妙な模様が刻まれていた。
「どうする?」ラーンの声に、イシェは答える。「左に進もう。右の道は何か変だ。」
三人は左の道を選んだ。しばらく進むと、大きな部屋に出た。部屋の中央には、巨大な石像が立っていた。その石像の目は、まるで生きているように、ラーンたちをじっと見つめていた。
「これは…!」ラーンの声が震えた。「仕掛けだ!」
石像の目の前で、床に光る文字が現れた。それは、古代の言葉で書かれた呪文だった。
テルヘルが呪文を読み上げると、石像の目が赤く輝き始めた。そして、石像はゆっくりと動き出した。
「逃げろ!」イシェの叫び声が響いた。三人は慌てて部屋から逃げ出した。しかし、石像は彼らを追いかけてきた。
石像は、ラーンの前に立ちはだかった。「お前たちは、この遺跡には入ってくるべきではなかった!」と石像は言った。その声は、まるで雷鳴のように轟き渡った。
ラーンは剣を振り上げた。「そんなこと言っても、俺たちは諦めないぞ!」
石像との戦いが始まった。ラーンの攻撃は、石像に何のダメージも与えなかった。イシェが石像の足元を狙うように矢を放ったが、それも無駄だった。
テルヘルは冷静に状況を分析し、「あの呪文…何か意味があるはずだ!」と叫んだ。彼女は石碑の文字を思い出した。「自然の一部…そうか!」
テルヘルは石像の背後にある壁に向かって、呪文を唱えた。すると、壁から水が噴き出した。水は石像の体を包み込み、石像はゆっくりと溶け始めた。
「やったぞ!」ラーンは叫んだ。しかし、イシェは不安な表情でテルヘルを見つめていた。
「なぜ…なぜその呪文を知っていたんだ?」イシェは尋ねた。
テルヘルは少しだけ微笑んだ。「私はヴォルダンから逃げてきたのだ。そして、この遺跡には秘密があることを知っていた。私は、この仕掛けを解き明かすために、あなたたちを利用した。」
ラーンの顔色が変わった。「利用…?」
テルヘルは剣を抜いた。「そして、今はもう必要ない。」