ラーンが、剣を片手に遺跡の奥深くへと踏み込んだ。崩れかけた石畳の上で足元を確かめながら、イシェの後を追う。薄暗い通路は湿気を含んだ冷たい空気に満ちていて、かすかな埃っぽい臭いが鼻腔をくすぐる。
「ここまできたら、何かしらあるはずだ」
ラーンがそう言うと、イシェは眉間に皺を寄せた。「またそんなこと言うなよ。遺跡探検なんて、宝探しゲームじゃないんだぞ。危険ばかりだし、大抵の場合何もないんだよ」。
イシェの言葉通り、これまで何十もの遺跡を探検してきたが、本当に価値あるものは一度も手に入れたことがなかった。それでもラーンは「いつか大穴を見つける」という希望を捨てていなかった。それは、彼自身の頑固な性格ゆえなのかもしれないし、あるいは、彼の中に眠る何か、イシェには理解できないようなものがあるからなのかもしれない。
その時、通路の奥からテルヘルが低い声を上げた。「ここだ」。
彼女は、壁に埋め込まれた石板を指さした。石板には複雑な模様が刻まれており、まるで古代の文字のように見えた。イシェは一瞬、興奮を感じたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「これは何？」
テルヘルは、わずかに唇を動かして答えた。「ヴォルダン帝国の紋章だ」。
その瞬間、イシェは背筋が凍りつくのを感じた。ヴォルダン帝国。それは、テルヘルの故郷であり、彼女の人生を破壊した存在だった。そして、この遺跡にヴォルダンの紋章があるということは、この遺跡とヴォルダンには何らかの深い関わりがあることを意味していた。
ラーンは、石板を指さして言った。「おい、これって、もしかして宝の地図だったりするんじゃないのか？」
イシェは、ラーンの言葉を無視してテルヘルを見つめた。「どうするんだ？ この遺跡にヴォルダンの影が潜んでいるということは…」
テルヘルは、鋭い目を細めて言った。「この遺跡から、ヴォルダン帝国の秘密を暴き出すのだ」。
彼女の言葉には、復讐心だけでなく、何か別のものも混じっているようだった。イシェは、その意味を理解することはできなかったが、彼女と一緒にこの遺跡を探検していく決意をした。
ラーンとテルヘルが遺跡の奥へと進んでいく中、イシェは後から続く。彼女は自分の足元ばかり見ているのではなく、周りの様子をよく観察している。この遺跡には、ヴォルダンの影だけでなく、何か別のものも潜んでいるように感じたのだ。それは、まるで、この遺跡自体が生きているかのような、不思議な感覚だった。
そして、イシェの心の中で、一つの疑問が芽生えた。一体、この遺跡は何を秘めているのか？ そして、ラーンとテルヘルは、本当に「大穴」を見つけることができるのか？