「よし、今回はあの崩れかけた塔だ」ラーンが地図を広げ、指さした。イシェは眉間に皺を寄せた。「また危険な場所かい? 以前も言っただろう、あの塔は魔物が出ると噂があるぞ」
ラーンの豪快な笑い声が響いた。「気にすんな! 魔物なんて退治すればいいんだ!」
イシェはため息をつき、テルヘルに視線を向けた。彼女は冷静に地図を眺めていた。「塔の中心部にある部屋には、かつて王家の宝庫があったという記録がある。もし本当なら、価値ある遺物が残っている可能性が高い」
ラーンの耳がぴくっと動いた。「そうか! 宝物か! それなら行く価値はあるな!」
イシェはテルヘルの視線を感じ、小さく頷いた。彼女はいつもより冷静で、少しだけ距離を置いてラーンと対峙している。
「今回は報酬を増やして欲しい」イシェが切り出した。「あの塔は危険だ。それに、僕たちにはリスクに見合った見返りが必要だ」
テルヘルは少しだけ笑みを浮かべた。「その通り。君たちが安全に帰還できるよう、十分な準備をする必要があるだろう。」彼女は静かに言葉を選び、「報酬を上げてもいい。ただし、条件がある」
ラーンが興奮気味に口を開こうとしたが、イシェが制止するように手を挙げた。「何の条件だ?」
「塔の中心部で発見された遺物は全て私に渡すことだ」テルヘルは涼しい声で言った。「報酬と引き換えに、その権利を譲る。どうだ?」
ラーンは不満げに眉をひそめたが、イシェは冷静に状況を判断した。危険な塔に挑むには十分な報酬が必要だ。そして、テルヘルの目的を知ることで、彼らも何かを得られるかもしれない。
「了解だ」イシェはゆっくりと頷いた。「条件を呑む」