「よし、今回はあの崩れかけた塔だ。地図によると、奥の部屋には未発見の遺物があるらしい」ラーンが目を輝かせ、イシェはため息をついた。
「また大穴か? ラーン、そんな夢を見るのはいいけど、現実的に考えてみろ。遺跡探索で本当に大金持ちになった奴なんて見たことないぞ」
「ああ、でもいつか必ずって! イシェも、俺たちの大穴が見つかったら一緒に豪遊しようぜ!」ラーンの笑顔にイシェは苦笑した。ラーンと出会ったのは幼い頃。ビレーの子供たちの遊び相手から遺跡探しの仲間になった。ラーンの無鉄砲さにイシェが振り回される日々だが、彼の人懐っこい笑顔にはいつも心が和んでしまう。
「わかった、わかった。今回は塔だ」イシェは地図を広げ始めた。「テルヘルはどうする? 彼女も来るのか?」
「ああ、今回は必須だ。あの塔はヴォルダン軍がかつて使っていたらしい。危険な罠が仕掛けられているかもしれない。テルヘルの知識と戦闘能力が必要だ」ラーンの言葉にイシェは頷いた。テルヘルは謎が多い女だ。ヴォルダンへの復讐を誓うという彼女の過去には誰も触れずにいる。だが、その冷酷さと知性には誰もが畏敬の念を抱かざるを得ない。
ビレーの小さな酒場で、3人はテルヘルと合流した。彼女はいつも通り無表情で、ラーンとイシェを見下ろすように座っていた。「準備はいいか?」彼女の低い声が響き渡る。
「もちろんだ、テルヘル様。今回は俺たちが大穴を見つけ出してやるから、遺物はその報酬で十分だ」ラーンの言葉にテルヘルはわずかに唇を動かす。
「大穴か…興味深い。もし見つかったら、私の目的にも役立つかもしれない」彼女の目はどこか遠くを見つめていた。
3人は遺跡へと向かう。崩れかけた塔は、かつての栄華を偲ばせる石造りの柱が空に向かって伸びている。ラーンとイシェは警戒しながら塔の中へ入っていく。テルヘルは後からゆっくりと続く。
「何か感じる…不吉な気配がする」イシェが呟いた。
「気にするな、イシェ。俺たちがいるんだぞ!」ラーンの励ましの言葉にイシェは少し安心した。
塔の奥深くで、彼らは巨大な石の扉を発見した。扉には複雑な模様が刻まれており、古代の魔術を解読する必要があるようだった。
「これは…」テルヘルが近づき、扉の模様をじっと見つめる。「ヴォルダン軍が使用していた古代の封印だ。強力な魔物が封印されている可能性がある」
ラーンの表情が曇る。「そんな危険な場所に入っていくのはやめておこうよ…」
「いや、あの封印の中に…ヴォルダンに奪われたものがあるかもしれない」テルヘルの目は燃えるように輝いていた。
イシェはラーンの手を強く握った。「ラーン、今回は僕たちもテルヘルのために戦うんだ」ラーンの表情が少し和らぎ、頷いた。
3人は力を合わせて扉の封印を解き始めた。彼らの前に、長い眠りから覚めようとする存在が待ち受けている…