ビレーの酒場「老いた竜」にはいつもより活気があった。ラーンがいつものように大杯の酒を喉に流し込むと、イシェが眉間にしわを寄せながら言った。「あのテルヘル、また怪しい依頼持ち込んで来たらしいよ。今回はヴォルダンとの国境付近の遺跡だって。」
ラーンの顔は一瞬曇った。「ヴォルダンか…俺たちがそんな危険な場所に行く理由はないだろう。あの女は一体何を企んでるんだ?」
イシェはため息をついた。「お前はいつもそう言うじゃないか。高額の日当と引き換えに危険を冒すのが遺跡探索者だ。それに、テルヘルがヴォルダンに何か恨みを抱えているのは確かだし、その恨みを晴らすために俺たちを利用しようとしている可能性もある。」
ラーンの視線がテーブルの上に置かれた酒の瓶に移った。「確かにそうだな。でもな、あの女は俺たちのことを利用しているだけじゃない気がするんだ。何か他に理由があるような気がしてならん。」
イシェがラーンの目をじっと見つめた。「お前は一体何を言いたいんだ?」
ラーンは立ち上がり、背の高い体でイシェを睥睨した。「俺はあの女についてもっと知りたいんだ。あの女の過去、そしてヴォルダンとの関係…。俺たちはただの遺跡探索者じゃないかもしれない。何か大きなことに巻き込まれているのかもしれない。」
イシェは少し驚いた表情を見せながらも、ラーンの熱意に押されるように頷いた。「わかった。わかったよ。じゃあ、次の依頼を聞きに行こう。」
老いた竜の扉が開き、テルヘルがそっと入ってきた。彼女の鋭い眼差しがラーンとイシェを貫く。「準備はいいですか?あの遺跡には、あなたがたが欲しがっているものがあるはずです。」
ラーンの心はざわつき始めた。テルヘルの言葉には何か別の意味が込められているような気がした。そして、彼が深く感じているのは、この遺跡探索を通して、彼自身が変わっていくことへの期待と不安だった。