「よし、今日はあの洞窟だ。噂では奥に大きな部屋があるってな」
ラーンが拳を握り締め、興奮気味に言った。イシェはいつものように眉間にしわを寄せながら地図を広げた。
「また噂話か? そんな大部屋があったら、誰かがすでに発見しているはずだ」
「いやいや、今回は違う! この洞窟は最近見つかったばかりなんだって。まだ誰も入っていないらしいぞ!」
ラーンの目は輝き、イシェの冷静な判断を振り払うように熱く語った。テルヘルは二人が言い争う様子を冷ややかな目で見ていた。彼女の目的は遺跡の宝ではない。ヴォルダンへの復讐のため、必要な情報と力を手に入れることだけだった。
「よし、わかった。今日はあの洞窟に行くことにしよう」
イシェがため息をつきながら言った。ラーンの熱意には抗えない。それに、テルヘルが興味を示しているなら、何かしら収穫があるかもしれないとも思えた。
洞窟の入り口は狭く、険しい岩肌をよじ登らなければならない。ラーンは軽快に登っていくが、イシェは慎重に足を運び、テルヘルは静かに後をついていく。
洞窟の中は暗く湿っていた。石膏のような白い結晶が壁一面に張り付いており、不気味な輝きを放っていた。進むにつれて空気が重くなり、圧迫感を感じた。
「ここには何かいる気配を感じる…」
イシェが小声で呟いた。ラーンは剣を構え、周囲を見回した。テルヘルは静かに手を前に伸ばし、何かを察知しているようだった。
「ここからは慎重に。何か罠があるかもしれない」
テルヘルの警告に従い、三人はゆっくりと進んだ。やがて洞窟の奥に広がる大きな部屋が見えてきた。そこには巨大な石棺が置かれており、その周りに金貨や宝石が散乱していた。
「おおっ! やったぞ!」
ラーンは興奮して大声を上げた。イシェも目を丸くし、テルヘルは薄暗い顔つきで部屋を見渡した。
「これは… ヴォルダンに繋がる情報かもしれない…」
彼女は呟いた。宝の山ではなく、復讐の糸口を握る鍵があるかもしれない。三人はその部屋から抜け出す時、交易品として新たな運命を背負っていた。