ラーンが巨大な石の扉を押さえるようにして開けようとするとき、イシェは背後から「待て!」と叫んだ。扉には複雑な模様が刻まれており、イシェは一瞬でそれが警告符だと認識したのだ。だがラーンの耳には届かず、扉はゆっくりと開かれ始めた。その時、扉の奥から冷たい風が吹き出し、イシェの手がわずかに震えた。
「ラーン、あの石碑の記号…!」
ラーンはイシェの言葉に振り返る間もなく、扉が開け切ると同時に床が崩れ始めた。二人はバランスを崩し、深い闇へ転落した。激しい衝撃で意識が朦朧とする中、イシェは何かを掴んだ気がした。それは冷たい金属だった。
目を覚ますと、ラーンは狭い空間の中に閉じ込められていた。イシェの姿が見当たらない。近くの壁には、石碑の記号と似た模様が刻まれていた。「ここは…?」と呟くラーンの耳に、遠くで何かが動く音が聞こえた。
「イシェ!」
声に応えるように、かすかな光が揺らめき始めた。イシェは、崩れた床の下から這い上がってきたのだ。彼女の手には、扉の奥で見つけた金属製のランプが握られていた。その光が照らす先に、奇妙な装置が置かれていた。それは複雑に絡み合った金属製の管や歯車で構成され、まるで生きているかのように脈打つように動いていた。
「これは…」
イシェは装置を指さしながら言った。「遺跡の記録だと、これは『交差装置』と呼ばれるものらしい。異なる空間を繋ぐ装置だと言われているけど…」
ラーンの顔色が変わるのが見えた。「違う空間?もしかして…?」
二人は装置に近づき、その内部を覗き込んだ。そこには、見覚えのある風景が広がっていた。それは、ビレーの街だった。しかし、どこか歪んでいて不気味な印象を与える。
「あの石碑…」
イシェは呟いた。「あの記号は警告ではなかったのかもしれない…。」
ラーンの顔に恐怖の色が浮かぶ中、装置から不穏な音が響き始めた。二人は互いに顔を合わせた。今、彼らが直面しているのは、単なる遺跡探索以上の何かだった。