ラーンが巨大な石の扉を押さえる。イシェが後ろから力を加える。埃っぽい空気が充満する遺跡の奥深くへと続く通路が開かれた。「よし、行こう!」ラーンの声は興奮気味だ。イシェは小さくため息をつきながら、彼の後を続いた。
彼らはビレーの市場でテルヘルに依頼された遺跡を探していた。彼女はいつもより高額な報酬を提示し、「今回は特に重要だ」とだけ告げていた。
通路を進むにつれ、壁には奇妙な模様が刻まれていた。イシェはそれらを慎重に観察する。まるで古代の文字のようだが、彼女の知識では解読できない。「何か分かるか?」ラーンの問いかけに、イシェは首を横に振った。「見たことのないものだ」
やがて通路の先に広がる空間が見えてきた。そこには、巨大な石碑がそびえ立っていた。その表面には、先ほどの模様と同様のものが複雑に描かれていた。
ラーンの目が輝き、「これは大穴だ!」と叫んだ。イシェは彼の熱狂を理解できなかった。ただの石碑にそんな価値があるとは思えない。だが、テルヘルが特にこの遺跡を重視していることだけは確かだった。
テルヘルが遺跡の調査を終え、3人はビレーに戻っていた。彼女は石碑の写真を手に、「これはヴォルダン王家の象徴である」と説明した。「その中心には、王家の血統を示す紋章が刻まれているはずだ。それを手に入れることが私の復讐に必要だ」
イシェは彼女に問いかけた。「なぜそんな危険なことをするのですか?」テルヘルは静かに言った。「私はヴォルダンに全てを奪われた。家族も、故郷も、そして大切な人を…。彼らへの復讐を果たすため、どんな犠牲も厭わない」
イシェの視線は石碑の写真からラーンの顔へと移った。彼は無邪気に笑みを浮かべている。「いつか大穴を見つけてやるぜ!」と豪語していた。イシェは彼の純粋さに少し羨ましさを感じた。だが同時に、彼を巻き込んだ責任の重さも実感した。
テルヘルが遺跡から持ち出した石碑の破片には、奇妙な力を感じ取ることができた。それはまるで、石碑に刻まれた模様が生きているかのような感覚だった。イシェは、この遺跡とテルヘルの復讐が、彼らをどこへと導くのか不安でいっぱいになった。そして、どこかで交合が起こることを予感した。