「準備はいいか?」
ラーンの粗雑な声にイシェはため息をついた。いつも通り、彼は剣を磨いてはいるものの、地図や必要な装備の確認など、細かな準備を怠りがちだ。
「いつも言ってるじゃない。準備は万端に整えてあるわ」
イシェがそう言うと、ラーンはニヤリと笑った。
「ああ、イシェにはいつも頼りになるな。じゃぁ行こうぜ!」
彼は勢いよく洞窟の入り口へと足を踏み入れた。イシェは小さくため息をつきながら、後ろをついていった。テルヘルは二人の様子を静かに見守っていた。
洞窟内部は薄暗く、湿った冷気が漂っていた。ラーンの足音だけが響き渡り、その音はどこか不気味に感じられた。彼らは進路を慎重に選びながら、深い闇へと進んでいった。
「何か感じるか?」
テルヘルが突然尋ねた。イシェは眉間に皺を寄せ、周囲を見回した。
「特に…ありませんが」
「私は感じるわ。何かがここに眠っている。そして、それは私たちを歓迎しない」
彼女の言葉にラーンは少しだけ顔色が変わった。彼はいつも通り軽口を叩こうとしたが、言葉が詰まってしまった。
しばらくの間、3人は緊張感漂う沈黙の中で歩を進めた。やがて、洞窟の奥深くで、かすかな光が見え始めた。
「あれだ!」
ラーンは興奮した様子で駆け出した。イシェもテルヘルも彼を追いかけるようにして進んだ。
光が強くなるにつれて、その正体が明らかになった。それは巨大な石碑だった。表面には複雑な模様が刻まれており、まるで生きているかのように輝いている。
ラーンは目を輝かせながら石碑に近づき、手を伸ばそうとしたその時、イシェが彼を制した。
「待て!」
彼女は石碑の足元に目をやった。そこには、何やら奇妙な紋章が刻まれていた。
「これは…」
イシェは言葉を失った。彼女はかつて見たことのある、ある伝説の記号を思い浮かべた。
それは、交わりの印だった。