ビレーの朝の陽光は、まだ遺跡の影に届かない。ラーンは寝起きのイシェに声をかけた。「起きろ、起きろ！今日はテルヘルが待ってるんだぞ。大穴が見つかるかもしれないって！」
イシェは眠そうに目を擦り、「またか…」と呟いた。ラーンの熱意にはいつもついて行けず、内心では堅実な仕事を探したいと考えている。だが、ラーンの仲間意識と、どこかで夢を信じたいという気持ちも捨てきれない。
テルヘルはいつものように厳しく、効率的に遺跡調査を進めた。彼女の指示に従い、ラーンとイシェは崩れた石造りの壁を慎重に解体していった。埃っぽい空気を吸い込みながら、イシェはかすかな異変を感じた。視界の端で何かが動いたような気がしたのだ。
「ラーン、ちょっと…」イシェは声をかけたが、ラーンの注意はすでに別の場所に奪われていた。「なんだこれは！」
彼は興奮気味に石畳の下から発掘された古い金属製の箱を見せびらかしていた。テルヘルも興味を示し、慎重に箱を開け始めた。その瞬間、冷たい空気が遺跡中に流れ込み、不気味な影が壁を這い上がるように広がった。イシェは背筋が凍りつくのを感じた。
「何かいる…」
ラーンの声が震えていた。箱から溢れ出す黒い霧の中に、ぼんやりと人の形をした影が浮かび上がってくる。それはまるで、かつてこの遺跡に住んでいた人々、あるいは何か別の存在の亡霊のようだった。
テルヘルは冷静さを保ちながら剣を抜き、「何者だ！我々の邪魔をするな！」と叫んだ。しかし、亡霊は無視するかのようにラーンにゆっくりと近づいていった。ラーンの瞳が恐怖で大きく開き、剣を握る手が震えるのが見えた。イシェは自分の足がすくむのを感じながらも、ラーンの前に立ちふさがり、小さなナイフを構えた。
「ラーン、気をつけろ！」