ビレーの朝はひんやりと冷えた風とともに始まった。ラーンの寝息が荒くなった。イシェは彼を起こす前に、近くの泉から汲んできた水を口にした。冷たい水は喉を通り抜け、目を覚ました。ラーンはまだ眠り続けている。彼の顔は日焼けで赤黒く、額には汗の跡がついていた。イシェはそっと寝顔をのぞき込んだ。荒れた髪と不規則に生えているひげ。いつも通りのラーンだ。
「おい、起きろよ。」イシェは肩を軽く叩いた。「今日はテルヘルが待ってるんだぞ。」
ラーンの目蓋がゆっくりと動いた。そして、眠けをこすりながら座り上がった。
「ああ、そうだったな。今日こそ大穴を開けてやるぜ！」
彼は拳を握りしめ、目を輝かせた。イシェは苦笑した。ラーンの言葉はいつも同じだった。
今日はテルヘルが指定した遺跡に向かう日だった。ビレーから南へ半日の距離にあるという。イシェは地図を広げて確認した。そこは険しい山脈に囲まれた場所だ。遺跡の入り口は狭い洞窟で、内部は複雑な構造をしているらしい。危険も伴うだろう。
「準備はいいか？」
テルヘルの声が響いた。彼女は黒装束を身にまとい、鋭い目をしていた。背後には二振りの剣が収められていた。
「もちろんだ。」ラーンは剣を抜いて、軽快に振り回した。「さあ、イシェ！大穴を目指せ！」
三人はビレーの街を出発した。太陽が燦々と降り注ぎ、地面を熱く焼き付けている。空気中に埃が舞っていた。歩き続けるうちに、汗が額を伝い始めた。イシェは喉の渇きを感じた。
「そろそろ休憩をとったほうがいいんじゃないか？」
イシェは提案したが、ラーンは気にせず歩き続けた。「あと少しだ。」
彼は遠くの山脈を指さした。
洞窟の入り口に近づくにつれて、気温が下がっていった。湿った空気が肌に張り付いた。洞窟の入り口は暗く、不気味な雰囲気を漂わせていた。イシェは不安を感じた。
「ここに入るのか？」
ラーンの顔には決意の色が見られた。「準備はいいぞ！さあ、テルヘル！」
三人は洞窟の中へと踏み込んだ。光が遮断され、周囲は漆黒の世界だった。
「気をつけろ。」テルヘルの声が響いた。彼女の足音は軽やかで、石畳の上を静かに移動していた。ラーンの足音は重く、イシェの足音は小さくかすれていた。
洞窟の中は狭く、天井が低かった。湿った岩肌から冷たい風が吹きつけてきた。イシェは寒さと共に、不安と恐怖を感じた。
「ここには何かいる気がする…」イシェは小声で言った。
ラーンは笑った。「そんなものいないよ。ほら、テルヘルに付いて行けば大丈夫だ。」
しかし、イシェの直感は間違っていなかった。洞窟の奥深くから、不気味な音が聞こえてきた。それはかすかなうなり声のようだった。三人は互いに顔を見合わせた。
「何かいるぞ！」ラーンは剣を抜き出した。