ビレーの薄暗い酒場で、ラーンが豪快に笑っていた。イシェは眉間にしわを寄せていた。「また無駄遣いをしたのか？」「いや、今日は特別だ！あのテルヘルが珍しい銘柄の酒を奢ってくれたんだ！」ラーンの言葉に、イシェはさらに眉間にしわを寄せた。「一体なぜ？」
「だって、今日の遺跡探索で大きな成果があったからだ！」ラーンは胸を張った。イシェは、ラーンの興奮に巻き込まれそうになりながら、冷静さを保とうとした。「成果？何が見つかったんだ？」「古代の地図の一部だ！テルヘルが言うには、あの地図を完成させれば、伝説の大穴にたどり着けるらしい！」
ラーンの目は輝いていた。イシェは彼の熱意を抑えきれず、小さくため息をついた。大穴。それはビレーの人々が語り継ぐ夢であり、希望であり、同時に虚妄でもある。イシェは、いつか大穴を見つけるというラーンの夢を信じたい気持ちと、現実を受け止めようとする理性との間で揺れ動いていた。
テルヘルは、ラーンたちの興奮に冷めた目で見ていた。彼女にとって、大穴は復讐のための道具に過ぎなかった。ヴォルダンとの戦いに勝利するためには、どんな手段も必要だった。ラーンとイシェを利用するのも、そのための手段の一つだ。しかし、彼らを見ているうちに、テルヘル自身の心に何かが芽生え始めていたのかもしれない。
「地図の次の手がかりは、ヴォルダンの支配下にある遺跡にあるらしい」テルヘルは言った。「危険だが、大穴への道を開くには避けて通れない。」ラーンとイシェは、互いに顔を見合わせた。
「行くぞ、イシェ！伝説の大穴を手に入れるために！」ラーンは立ち上がり、剣を手に取った。イシェは深くため息をつきながら、彼の後を追った。テルヘルは、彼らの後ろ姿を見ながら、複雑な表情を浮かべた。彼女の復讐の炎は燃え続けていたが、その中に、何か別のものが混ざり始めていたようだった。