「準備はいいか？」テルヘルが鋭い眼光でラーンとイシェを見据えた。二人は互いに頷き合った。ビレーから少し離れた場所にある遺跡の入り口に立っていた。今回はテルヘルが持ち込んだ情報によると、かつてこの地に栄えた古代文明の王墓があるという。
「よし、行くぞ」ラーンの豪快な声で遺跡へと足を踏み入れた。イシェはラーンの後ろを歩きながら、周囲を警戒した。遺跡内部は暗く湿り気があり、薄暗い光が差し込むだけで視界は限られていた。
「ここには罠があるかもしれない。気をつけろ」テルヘルは常に冷静さを保ちながら、先頭を歩いていった。彼女の言葉通り、一歩踏み出すたびに床が軋む音が響き渡り、不気味な雰囲気に包まれた。
遺跡の中心部にあるとされる王墓を目指すにつれて、イシェの不安は増していく。ラーンの無鉄砲さはいつも心配になるが、今回は特に危険を感じた。テルヘルからの情報によると、この遺跡には強力な魔物が封印されているという噂があったのだ。
「何かいる…」イシェは背筋を寒気に走らせる感覚に襲われた。その時、突然床から鋭い棘が飛び出した。ラーンは咄嗟に剣で防御したが、イシェは避けきれず右腕に傷を負ってしまった。
「イシェ！」ラーンの叫び声と共に、テルヘルが素早く敵の背後へ回り込み、短剣を突き刺した。「行くぞ！逃げるんだ！」テルヘルは冷静な指示を与えながら、イシェを支えて逃げ始めた。
ラーンも後を追うようにして遺跡から脱出しようとしたが、出口付近に巨大な影が現れた。それは漆黒の体躯を持ち、鋭い牙と爪を持つ魔物だった。
「これは…！」テルヘルは顔色を失った。事前に情報収集したはずの魔物とは明らかに異なる存在だった。
「逃げるぞ！」テルヘルは絶叫し、ラーンとイシェを引っ張って再び遺跡の中へと戻っていった。
「待て！」ラーンの叫び声が響き渡る中、三人は遺跡の奥深くへと逃げ込んだ。そこは崩れかかった通路で、出口が見えない場所だった。
イシェは傷を握りしめながら、絶望的な状況に目を閉じようとした。だがその時、ラーンが何かを叫んでいることに気がついた。「イシェ！テi…！」彼の声は途切れた。
イシェが目を覚ますと、そこはビレーの小さな診療所だった。
「よかった…」イシェは安堵の息をついた。ラーンの姿はなく、テルヘルだけが静かに座っていた。「彼は…？」
テルヘルはゆっくりと頷いた。「今は大丈夫だ。だが、あの魔物は強力だ。私たちには勝てない。今回は運が良かっただけだ」彼女の言葉に、イシェは深く頷いた。