「よし、今回はあの崩れた塔だ!」ラーンの腕が興奮気味に振られる。イシェは彼の目の前で開かれた地図を指さした。「待てよ、ラーン。あの塔は崩落箇所が多いって聞いたぞ。安全確認してから入らないと…」
「そんなこと気にしなくていいって!いつか大穴を見つけるんだろ?それに、テルヘルさんが高い報酬を出してくれるって言うんだから」
イシェはため息をついた。ラーンの楽観的な性格にはいつも頭が痛む。「テルヘルさんには感謝しているけど、彼女の依頼で危険な遺跡ばかり行くのは…」
その時、背後から冷たい声がした。「二人は何か不満か?」テルヘルの鋭い視線が二人を貫いている。「私は命懸けの仕事をしていることを忘れているのか?」
ラーンは慌てて言い訳し始めたが、イシェは冷静に言った。「いいえ、テルヘルさん。私たちはただ安全について議論しているだけです」
テルヘルは少しだけ柔らかく微笑んだ。「そうか、安心した。では、準備を済ませて出発だ。あの塔には何かがあるはずだ…私の乳母が教えてくれたように」
イシェはテルヘルの言葉を聞きながら、不吉な予感がした。いつも冷静で計画的なテルヘルだが、今回はどこか様子が違う。そして「乳母」という言葉も奇妙に響いた。「乳母」とは一体何者なのか?その謎にイシェの不安は深まった。