ラーンが大きな声で笑う。巨大な石棺の蓋を開けた瞬間だった。イシェは眉間にしわを寄せながら、棺の中に覗き込む。「骨だけか。また宝くじに当たらないな」。「そう簡単に大穴が見つかると思ったら間違いだぞ、イシェ」ラーンはニヤリと笑った。「ほら、テルヘル、どうだ？ 何か面白いものはないか？」
テルヘルは棺の周りを見回し、鋭い目で石棺を Appraisalした。彼女の視線は石棺から離れず、表情は硬かった。「何もない」。彼女の言葉にラーンの笑顔が薄れる。イシェは溜息をつき、石棺の蓋を閉めた。「今日はもう帰ろうか」。
「まだだ」テルヘルは言った。「この遺跡には何かあるはずだ。もっと探す必要がある」。ラーンの肩を軽く叩いた。「お前らには少し疲れた顔をしているぞ。休憩だ」。彼女は小さな袋を取り出し、中から硬いパンと水を出す。「これが最後の食料だ。明日からは自分で調達するんだな」。
イシェはパンを受け取ると、テルヘルに尋ねた。「この遺跡を調査する理由を教えてくれないか？ ヴォルダンへの復讐だけじゃないだろう？」テルヘルは少しの間沈黙し、空を見上げた。「かつて私は、この世界で一番裕福な貴族だった。だが、ヴォルダンが全てを奪い、私の人生を破滅させたのだ」。彼女の目は燃えるような光を放った。「私は彼にすべてを償わせる。そして、失ったものを取り戻すために」。
ラーンはテルヘルの言葉を聞きながら、何かを感じ取った。「あの日、ヴォルダンに襲われた時、お前は逃げ出したんじゃないか？」彼の言葉に、テルヘルは一瞬目を閉じた。
「私は乞食になったのだ」彼女は静かに言った。「そして、私は生き延びるために、あらゆる手段を使ってきた」。
イシェはラーンの言葉を理解し、彼を見つめた。「お前はいつもこうだったな。人の弱みにつけこんで、利用するんだろ？」ラーンはイシェの視線を感じながら、苦笑いした。「ああ、そうかもしれない」。彼は立ち上がり、石棺に向かって剣を構えた。「だが、今日の仕事はここで終わりだ。明日からは、お前たちのペースで探すんだ」。
テルヘルはラーンの言葉に頷き、静かに遺跡から立ち去った。イシェはラーンをじっと見つめ、何か言いたげな表情をしたが、結局何も言わずに立ち上がった。二人はテルヘルの後を追い、遺跡から出て行った。夕暮れ時の光が、彼らの背中に長く伸びる影を作っていた。