「おい、イシェ！まだやるか？」ラーンが、埃っぽい遺跡の入口で不機嫌そうに言った。イシェは、わずかな光が差し込む隙間から差し出された古い地図を眺めながら、「もう少しだけだ。何かあるかもしれない」と答えた。テルヘルは背を向け、遺跡の奥へと進んでいった。「早く終わらせてくれ。この場所には何もない」と、その声が響いてきた。
ラーンの不機嫌さは、日を追うごとに増していた。最近、遺跡から見つかる遺物はどれも質素なもので、高値で売れるようなものはないのだ。イシェはそんなラーンの様子を心配しながらも、地図に描かれた謎のシンボルに心を奪われていた。それは、かつてこの地に栄えた文明の痕跡を示すものであり、イシェには何らかの重要な意味があると感じられた。
テルヘルが突然立ち止まり、「ここだ」と言った。彼女は壁に手を当て、何かを感知しているようだった。ラーンは眉間に皺を寄せ、「またまたか？」と呟いたが、イシェは緊張した表情でテルヘルの動きを注視した。テルヘルは壁の石を慎重に押すと、そこから低い音が響き渡った。壁の一部がスライドし、奥へと続く通路が現れた。
「これは…！」イシェの声が震えた。「地図には記されていなかった…」ラーンは不機嫌さを忘れ、興奮気味に剣を抜いた。「よし！行くぞ！」と叫び、テルヘルとイシェの後を続いた。
通路は狭く、湿った空気が漂っていた。壁には奇妙な模様が刻まれており、ラーンの不安を掻き立てるような雰囲気だった。しばらく進むと、通路の先に広がる空間が見えてきた。そこには、巨大な石柱が立ち並び、中央には祭壇のようなものが置かれていた。
「これは…」イシェは息を呑んだ。「古代文明の聖域…？」テルヘルは祭壇に手を伸ばし、そこに置かれた小さな水晶の球を手に取った。その瞬間、空間全体が輝き、石柱から光が放たれた。そして、突然の振動とともに、通路が崩れ始めた。
「逃げろ！」ラーンの叫びが響き渡る中、三人は出口へと駆け込んだ。崩れ落ちる遺跡の背後には、巨大な影が浮かび上がっていた。イシェは振り返った瞬間、激しい光に目を覆った。
「これは…何だ？」イシェは意識朦朧としながら呟いた。ラーンはイシェを支えながら、崩壊する遺跡から逃げるための道を必死に探した。「とにかく、生きて出よう！」彼の言葉に、イシェはわずかに頷いた。
三人は崩れゆく遺跡から脱出し、荒野に飛び出した。振り返ると、遺跡はすでに瓦礫の山と化していた。イシェは息を切らしながら、まだ光り続ける水晶の球を見つめた。「あの光…一体何を意味するのか…」彼女は呟き、ラーンが自分の肩に手を置いていることに気づいた。
「大丈夫だ、イシェ」ラーンの声は、いつもより少し低く、落ち着いていた。イシェは彼を振り返ると、彼の目に初めて見た真剣な表情があった。「あの遺跡から逃げるために、私たちは乗り換えなければならなかった。そして、今こそ、新たな旅が始まるんだ」