「準備はいいか?」テルヘルが鋭い視線でラーンとイシェの顔色を確認した。二人は互いに頷き合う。ビレーの朝の空気は澄んでいて、遠くの山脈がくっきりと見渡せた。「よし、行こう」テルヘルの言葉に導かれるように、三人は遺跡へと足を踏み入れた。
遺跡の入り口は、崩れかけている石造りの門だった。かつての栄華を偲ばせる彫刻は、今では苔むしてほとんど原型をとどめていない。イシェが懐から地図を取り出し、慎重に確認しながら進路を示す。「ここからは注意が必要だ。以前の記録によると、このエリアにはトラップが仕掛けられている可能性がある」
ラーンの顔色が少し曇る。「またかよ…」と呟くと、彼は剣を手に取る。イシェは細身の体で素早く動き、周囲を探り始める。「確かに何か異変を感じますね…」。彼女は足元に落ちている石片を注意深く拾い上げ、指先でこすった。
その瞬間、地面が激しく震え始めた。石化した地面にひび割れが走り、そこから毒ガスが噴き出す。ラーンは素早くイシェを引っ張り、二人で逃げ込んだのは、崩れた石柱の陰だった。「くそっ!」テルヘルが声を荒げた。彼女は剣を抜いて周囲を見回し、「誰だ!?出てこい!」と叫んだ。
しかし、返答はなかった。毒ガスが充満する遺跡の中、三人は息を切らしながら互いに視線を交わした。
「あの…テルヘルさん」イシェが震える声で切り出した。「もしかして…」彼女は言葉を濁すように言った。「これはヴォルダンの人間による仕業ではないでしょうか?」
テルヘルは表情を硬くした。「まさか…」。彼女の目には、深い憎しみと疑念が渦巻いていた。
その時、遺跡の奥深くから、低い笑い声が響き渡った。その声は、まるで中年男がゆっくりと味わうように発していた。三人は互いに顔を見合わせた。そこに、新たな脅威の存在を感じたのだ。