「おい、イシェ、準備はいいか？」ラーンが、粗末な剣を手に取りながら言った。イシェは小さくため息をつき、工具の入った袋を締め直した。「いつも急ぐから困るわよ。あのテルヘルに付き合わされても、本当に大穴が見つかると思ってるのかしら」
ビレーの朝の空気が冷たかった。3人は遺跡へと向かう道中だった。ラーンはいつものように気分良く歌いながら先を歩いていく。イシェは彼の背後を少し遅れて歩き、テルヘルが吐き出す言葉に気を配っていた。
「この遺跡には古代ヴォルダンの王墓があるらしい。そこには強力な魔道具が眠っていると噂されている」
テルヘルの声は冷酷で鋭い。彼女はラーンとイシェとは違い、常に目的意識を前面に出していた。ヴォルダンへの復讐のために、遺跡から必要な物を見つけ出すのだ。
「大穴だ！」
ラーンの声が響いた。彼は興奮した様子で、崩れた壁の隙間を指さしていた。「ほら、イシェ！あの奥に何かがあるぞ！」
イシェはため息をつきながら、ラーンの後を追いかけた。テルヘルも冷静な目で遺跡の中を観察しながら進んだ。
「これは…何だ？」
イシェが壁に刻まれた奇妙な文字を指さした。それは複雑な模様で構成され、どこか不気味な雰囲気を漂わせていた。「見たことのない記号…」
ラーンは興味津々で近づき、文字に触れようとした。その時、地面から強い風が吹き上がり、ラーンを吹き飛ばした。イシェは驚いてラーンの手を掴もうとしたが、間に合わなかった。
「ラーン！」
イシェの叫びが遺跡にこだました。埃が立ち込める中、ラーンの姿は見えなくなった。テルヘルは冷静さを失わず、剣を抜き、周囲を見回した。
「誰だ！？出てみろ！」
彼女の言葉に反応するものは何もいなかった。
「これは…罠だったのか」イシェは震える声で言った。
テルヘルは不遜な笑みを浮かべた。「そうみたいね。でも、この遺跡には私が求めるものがある。たとえどんな罠が仕掛けられていても、私は手に入れる」
彼女は再び剣を振るい、遺跡の奥へと進んでいった。イシェはラーンの行方を心配しながら、テルヘルの後を追いかけていった。