「おい、イシェ、準備はいいか?」ラーンの声はいつも通り大げさだった。イシェは小さくため息をつきながら、道具の整理を続けた。テルヘルは彼らのやり取りをじっと見ていたが、特に何も言わなかった。
「今日はあの古代都市跡だぞ!噂によると、そこには巨大な宝石が眠っているって話だろ?」ラーンの目は輝いていた。イシェは眉間に皺を寄せた。「そんな噂を鵜呑みにするなよ。遺跡探索は危険だぞ。ましてやヴォルダンとの国境に近い場所ではなおさらだ」
「大丈夫だ、イシェ!俺たちにはテルヘルがいるじゃないか!」ラーンは自信満々に言った。テルヘルは鋭い目で彼らを睨みつけた。「私はあなたたちに危険を伴う仕事を与えているわけではありません。報酬を得るためには、リスクも承知の上で協力する必要があるだけです」
イシェはテルヘルの言葉に少しだけ安心した。だが、ラーンの不躾な言動にはいつもイライラさせられる。彼の冒険心は時に無謀だと思った。
遺跡の入り口は暗く湿っていた。埃っぽい空気が彼らを包み込んだ。ラーンは先頭を歩き、イシェは後ろから警戒を怠らなかった。テルヘルは常に彼らの背後から少し離れた位置を歩いていた。彼女の視線は鋭く、周囲を常に警戒していた。
遺跡の中は複雑な迷路のようになっており、何時間も探索しても出口が見つからない。ラーンの無茶な行動にイシェは何度も苦言を呈したが、彼は聞く耳を持たなかった。
「おい、イシェ!ここには何かがあるぞ!」ラーンの声が響き渡った。イシェが駆け寄ると、ラーンは興奮気味に壁に刻まれた古代の文字を見つけていた。「これは…もしかして?」
イシェも息を呑んだ。文字は確かに古代文明のものだった。そして、その下に記された記号は、伝説の宝石「星の涙」を示すものだった。
その時、背後から低い声が響いた。「邪魔だ」テルヘルが剣を抜いてラーンに迫っていた。ラーンの顔色が変わった。イシェは驚愕した。「テルヘル、何をするんだ?」
テルヘルは冷徹な表情で答えた。「私はヴォルダンへの復讐を果たすために、この宝石が必要なのです。あなたたちにはもう用はない」
ラーンの不躾さ、イシェの慎重さ、そしてテルヘルの執念。三者の運命が絡み合う遺跡の中で、激しい戦いが始まった。