ビレーの朝はいつも早かった。ラーンが目を覚ますと、イシェはもう準備を終えていた。イシェはいつも通り、彼を見下ろすような視線で言った。「今日はあの遺跡に行くんだ。あの場所なら何か見つかるかもしれないわよ」。
「ああ、そうだな」ラーンは眠い目をこすりながら答えたが、内心ではイシェの言葉に少しだけ興奮していた。巨大な遺跡群が残るビレー周辺では、誰もが夢を語った。「大穴」と呼ばれる莫大な財宝が眠っているという噂だ。
「今日はテルヘルさんが来るぞ。準備はいいか？」ラーンの問いかけに、イシェは小さく頷いた。彼女はいつも通り、冷静な表情で準備を進めていた。
テルヘルはヴォルダンから逃れてきた女性だと言っていた。鋭い眼光と寡黙な性格で、ラーンには少し怖い存在だった。しかし、彼女の知識と戦闘力は頼りになるものだった。
遺跡の入り口に着くと、テルヘルがすでに待っていた。彼女はいつものように、黒革の衣装に身を包み、鋭い刃を腰に携えていた。
「準備はいいな？今日は特に慎重に進もう。あの遺跡は危険だ」テルヘルは冷めた声で言った。ラーンの表情は少し曇った。「わかったよ、テルヘルさん」。彼はイシェと視線を交わしたが、イシェも何かを言おうとするかのように口を開き、そのまま黙ってしまった。
３人は遺跡の中へと足を踏み入れた。薄暗い通路を進んでいくと、不気味な音色が響いてきた。それはまるで、誰かが遠くで泣いているような声だった。「何かいるぞ」ラーンは剣を握りしめ、緊張した様子を見せた。イシェも静かに daggers を手に取った。テルヘルは表情を変えずに周囲を警戒していた。
遺跡の奥深くへと進むにつれて、不自然な気配が強まっていった。壁には奇妙な模様が刻まれており、床からは異様な音が聞こえてきた。ラーンは不気味に感じたが、イシェは冷静さを保っていた。
「ここは何かおかしいぞ…」ラーンの言葉に、テルヘルが小さく頷いた。「何かを感じているようだ」彼女は剣を抜き、警戒を強めた。
その時、突然、壁から何かが飛び出してきた。それは巨大な虫のようなものだった。鋭い牙と長い触手を持つそれは、まるで悪夢の産物のように不気味だった。ラーンは反射的に剣を振り下ろしたが、虫は素早くかわし、イシェに襲いかかった。
イシェは驚いてバランスを失ったが、なんとか身をかわした。しかし、虫の触手が彼女の腕をつかみ、鋭い牙が彼女の肌に食い込んだ。
「イシェ！」ラーンの叫びが響き渡った。彼は怒りと恐怖で目が赤くなった。虫を攻撃するが、その力はまるで鉄のように固く、剣は跳ね返された。
テルヘルは冷静さを保ち、魔法の力を使い、虫を拘束した。「逃げろ！私はこの場で遅れる！」彼女は叫びながら、虫と対峙した。ラーンはイシェを抱き上げ、彼女が意識を失わないよう必死に励ました。
「大丈夫だ、イシェ。必ず助けるから…」彼の声は震えていたが、彼は決して諦めない。