ビレーの酒場「荒くれ者の憩い」はいつもより客足がまばらだった。ラーンがイシェに顔をしかめて言った。「最近、仕事が少ないよな。遺跡の噂も薄れてきたし、あの大穴話も嘘っぱちだったんじゃないかと疑い始める奴もいるらしいぞ」。
イシェは静かに酒を飲んだ。「そんなこと言ってる奴は少ないだろ。ビレーの人間は簡単には希望を捨てるものじゃない。それに、あの日の出来事を忘れた奴はいないだろう」。
ラーンの顔に苦笑いが広がった。「ああ、そうだな。あの日の熱気は忘れられないぜ。あの時、本当に大穴が見つかると思ったんだ」。
二人はその日の出来事を思い出した。遺跡の奥深くで、燦々と輝く巨大な水晶球を発見した瞬間のこと。希望に胸を膨らませた仲間たち、そして、その直後に襲いかかった謎の怪物と激しい戦いの記憶。
「あの水晶球は一体何だったんだろうな?」ラーンの言葉にイシェは首を振った。「誰にもわからないよ。あれほどまでに強力な遺物があるなら、ヴォルダンがすぐにでも手に入れようとするはずなのに」。
その時、店の入り口でテルヘルが立ち止まった。「二人は準備ができているか?」彼女の鋭い視線がラーンとイシェを貫いた。「今日は少し特殊な依頼だ。ヴォルダンとの国境に近い遺跡へ行くことになる。危険だが、報酬は十分だ」。
ラーンは立ち上がり、剣を手に取った。「了解だ!大穴探しの夢は諦めていないぞ!」
イシェも小さく頷いた。しかし彼女の心の中には不安が渦巻いていた。不況が続くビレーでは、遺跡探索の依頼が減り、生活は苦しい日々だった。だが、あの水晶球を思い出すたびに、希望の光が見えたような気がした。
「よし、行こう」イシェは小さく呟いた。彼女には、この旅がラーンの夢を叶えるだけでなく、ビレーの人々を救う唯一の道になるかもしれないという予感がしていた。