「よし、今回はあの崩れた塔だ。噂によると奥深くには未開の部屋があるらしい」
ラーンの豪快な声がビレーの朝の喧騒を掻き消した。イシェは小さくため息をついた。
「またしても大穴の話か。ラーン、そんな夢を見続けても仕方がない。現実を見てほしい」
イシェの言葉にラーンは鼻で笑った。「現実？イシェ、俺たちは遺跡探検家だぞ！いつか必ず大穴を見つける！」
その背後でテルヘルが鋭い視線を送っていた。「準備はいいか？」彼女の声音は冷たかった。
「もちろん」
イシェは仕方なく頷く。ラーンの無謀さに付き合わされるのは毎度のことだが、彼には不思議な魅力がある。それに、テルヘルに雇われている以上、行くしかない。
崩れた塔の入り口には、かつての栄華を偲ばせる彫刻が朽ち果てている。内部は暗く湿気を帯び、埃っぽい空気が喉を締めつける。ラーンが先頭を切って進んでいく。イシェは後ろから彼を見つめながら、足取りを慎重にする。テルヘルは二人に遅れることなく、常に警戒を怠らない。
塔の中ほどまで進むと、壁一面に奇妙な模様が描かれている部屋に出た。壁画には、人々が下郎のように扱われている様子や、巨大な怪物が人間を苦しめている様子などが詳細に描かれていた。イシェは背筋が凍りつくような感覚を覚えた。
「これは…一体…」
イシェの言葉を遮るように、ラーンが壁画の一部分に触れた。「なんだ？何か反応があるぞ！」
その時、床から暗い光が立ち上り、部屋全体を包んだ。ラーンの体は光に包まれ、苦しげな声を上げた。イシェは驚いて駆け寄り、ラーンを助けようとする。だが、テルヘルが彼女の手を強く掴んだ。
「触るな！あの光は危険だ」
テルヘルの顔には深い皺が刻まれていた。「この壁画…ヴォルダンとの関係があるのかもしれない…」
イシェは恐怖で言葉を失った。ラーンの叫び声がこだまし、光はますます強くなっていく…。