ビレーの酒場「荒くれ者」にはいつも、ラーンとイシェの姿があった。賑やかな笑い声と共に酒を流し込み、大声を出すのはいつもラーンのほうだ。イシェは静かに彼の様子を見ながら、小さく微笑んだ。
「また遺跡探しの話か？」
「ああ、今日はテルヘルが珍しい遺物をみつけたらしいんだ。古代ヴォルダンの神殿の跡地でね！」
ラーンは目を輝かせながら興奮気味に語る。イシェはため息をついた。
「また危険な場所に行くつもりか？あの神殿は危険だぞ。噂では呪いでもかけられているって」
「そんなことないよ！テルヘルが言うなら大丈夫さ」
ラーンの言葉には確信がなかった。彼はテルヘルの話にいつも耳を傾けるが、彼女の目的は未だに謎だった。ヴォルダンへの復讐だと聞かされてはいるが、その憎悪の深さはラーンには理解できないものだった。
「でも、あの遺跡で何か見つけられたら、俺たちに下賜されるかもしれないぞ？大金持ちになれるかもな！」
ラーンの目は金貨の光を放っていた。イシェは彼の無邪気さに苦笑した。ラーンが夢見る大穴は、イシェにとってただの幻想だった。
「いい加減にしろよ、ラーン。そんな夢を見るのはもうやめよう」
イシェの言葉にラーンは少し顔を曇らせた。しかし、すぐにいつもの笑顔を取り戻し、酒をぐいっと傾けた。
「よし！今日は祝杯だ！次の遺跡探しの成功を祈って！」
ラーンの豪快な笑い声は、荒くれ者の中に響き渡った。イシェは彼を見つめながら、胸の中でため息をついた。彼らの未来は希望と不安が入り混じっているようだった。