「よし、今日はあの洞窟だ！」ラーンが拳を握りしめると、イシェは眉間に皺を寄せた。「また、行き当たりばったりか？あの洞窟は危険だって聞いたぞ。罠だらけだと…」
「大丈夫、大丈夫！俺が先導するから」ラーンは自信満々に笑った。イシェの心配など意に介さず、洞窟に向かって走り出した。
テルヘルは背後から静かに彼らを見つめていた。「無茶な連中だ…」と呟き、小さくため息をついた。だが、その瞳には冷酷さと同時に、どこか哀しげな光が宿っていた。彼女は彼らを利用しているつもりだったが、どこかで彼らに何かを期待していたのかもしれない。
洞窟の入り口は暗く湿っていた。石畳の階段が奥へと続いており、不気味な静けさが漂っていた。ラーンの足取りは軽やかだが、イシェは慎重に足を踏み入れる。テルヘルは二人を後ろから見守りながら、何かを探しているかのように周囲を警戒していた。
洞窟内は暗く、獣の臭いが漂う。壁には不規則な模様が刻まれており、どこか不気味な雰囲気を醸し出している。ラーンはワクワクしながら進んでいくが、イシェは不安げに周囲を警戒する。
突然、床から鋭い棘が飛び出した！ラーンは咄嗟に跳ね除け、イシェは驚いて後ずさった。棘には毒が残っているようで、触れた部分が赤く変色し始めた。
「これは罠だ！」テルヘルが叫んだ。彼女は素早く剣を抜いて周囲を警戒する。ラーンの顔色が悪くなった。「くそ…俺のせいだ…」
イシェは冷静に状況を判断した。「落ち着け、ラーン。まずは傷口を止血しよう」彼女は小さな袋から薬草を取り出してラーンの腕を包帯で締め付けた。
その時、洞窟奥深くから奇妙な音が聞こえてきた。まるで何者かがゆっくりと歩いている音だ。三人は息を呑んで静かに耳を澄ました。
「あれは…？」イシェがつぶやいた。
テルヘルは剣を握りしめ、低い声で言った。「一門の者たちだ…」