ビレーの薄暗い酒場には、いつもより活気がなかった。ラーンがイシェに声をかけると、彼女は眉間にしわを寄せたままだった。
「また騒ぎだしたのか?」
ラーンの問いかけに、イシェは小さく頷く。
「ヴォルダンとの国境で skirmish が起こったらしい。街には兵士が増えてきたし、出入りが厳しくなってる」
ラーンはため息をついた。「遺跡探索に行けないってわけか…俺たちのことまで巻き込んでくるなんて、本当に腹立たしいよ」
イシェは静かに言った。「でも、仕方がないわ。ヴォルダンとの緊張が高まっているのは事実だし、ビレーも安全を確保するために対策を取らざるを得ないのよ」
ラーンは酒をぐいっと飲み干すと、テーブルに叩きつけた。「俺たちの夢がこんなことで潰されるなんて…」
イシェはラーンの視線を避けながら言った。「大穴を見つけるには、遺跡探検が必要なだけよ。今は安全を確保することに専念して、落ち着いたらまた考えればいいんじゃない?」
その時、店の入り口が開き、テルヘルが入ってきた。いつもより表情が険しく、黒いコートの裾を地面に引きずるように歩いている。
「何かあったのか?」ラーンが尋ねると、テルヘルは静かに言った。「ヴォルダンとの国境警備が強化された。ビレーへの入出が制限され、遺跡へのアクセスも困難になっている」
ラーンの顔が曇り、イシェも沈黙した。テルヘルの言葉は、彼らの夢をさらに遠ざけるものだった。
「では、どうする?」ラーンが尋ねると、テルヘルは鋭い目で彼らを睨みつけた。「今すぐビレーを出るんだ。安全な場所へ移動して、次の動きを考える」