「よし、今回はあの崩れかけた塔だ。噂では地下に何かがあるらしいぞ」
ラーンの声はいつも通りの熱気で、イシェの眉間にしわを寄せた。
「また噂話か? そんな安っぽい話に騙されてばかりいるから大穴が見つからないんだよ」
イシェが言った通り、ラーンは遺跡探索の経験は豊富だが、そのほとんどは空振りだった。イシェは冷静に状況判断をするタイプで、ラーンの無謀な行動を何度も制止していた。
「ほら、テルヘルも賛成してるだろう?」
ラーンの視線がテルヘルに向き、彼女は小さく頷いた。
「塔の構造から見て、地下室の可能性が高い。調査する価値はある」
テルヘルの冷静な分析はいつも説得力があった。イシェが渋々頷くと、3人はビレーの郊外にある崩れかけた塔へと向かった。
塔に入ると、埃っぽい空気が立ち込め、日差しも届かない薄暗がりの中、朽ち果てた石畳が広がっていた。ラーンは興奮気味に剣を構え、イシェは慎重に足元を確認しながら進んだ。テルヘルは後方で2人の様子を冷静に観察していた。
塔の奥深くで、彼らは崩れかけた壁にぶつかった。壁には複雑な模様が刻まれており、その中心には小さな扉があった。
「ここだ!」
ラーンの声が響き渡る。彼は興奮を抑えきれず、扉を開けようと手を伸ばした。イシェはためらいがちに声をかけた。
「待て、ラーン。あの模様…もしかしたら罠かもしれない」
しかし、ラーンの耳には届いていなかった。彼は扉を押し開けようとした瞬間、壁から突起が伸び出し、ラーンを押し飛ばした。彼はよろめきながら倒れ、壁に激しく打ち付けられた。
「ラーン!」
イシェは駆け寄り、ラーンの意識を確認した。彼は意識を失っていた。
テルヘルは冷静に状況を判断し、壁の模様を注意深く観察した。
「これは…ヴォルダンの紋章だ」
彼女はつぶやいた。ヴォルダンといえば、エンノル連合との国境を接する大国で、テルヘルにとって憎悪の対象であった。
「まさか…」
イシェは恐怖を感じながら壁の紋章を見つめた。彼らはヴォルダンの罠に引っかかってしまったのだ。ラーンは意識を失い、イシェとテルヘルは絶体絶命の状況に追い込まれた。