「よし、今回はあの崩れた塔だ。噂によると、地下には未踏の遺跡があるらしいぞ」
ラーンの声がエコーのようにビレーの石畳に響き渡った。イシェは眉間にしわを寄せながら、彼の背後から地図を広げた。
「またそんな曖昧な情報に飛びつくのか? ラーン、あの塔は危険だって聞いたことがあるぞ。ヴォルダンが以前調査したらしいんだ」
「ああ、そうか。ヴォルダンか…」。ラーンは一瞬言葉を失った。イシェの言葉は彼の心を揺さぶった。ヴォルダンは彼らにとって遠い存在だが、その名前は常に影のように彼らを苦しめる。
テルヘルが鋭い視線で二人を見据えた。「どうだ? 今回は私が報酬を倍増するから、 risking a little bit はどうだろう?」
彼女の言葉にラーンは奮起した。「よし! 行くぞ、イシェ!」
イシェはため息をつきながら、地図をしまった。ラーンの熱意には抗えない。だが、心の奥底では不安が渦巻いていた。ヴォルダンの影が彼らを追いかけるように感じられたのだ。
崩れた塔の内部は薄暗く、埃っぽい空気が二人を包んだ。足元の石畳は崩れかけており、一歩一歩が慎重な作業だった。ラーンは剣を構え、イシェは小さなランプを握りしめていた。
「何かいるぞ…」イシェの声が震えていた。
ラーンの視線は塔の奥へと向けられた。影が蠢いているように見えた。その時、石畳の下から何かが飛び出した。巨大な虫のような生き物が二人に向かって襲い掛かってきた。
ラーンは剣を振り下ろしたが、その攻撃は空を切った。イシェは素早く後ずさりし、ランプを投げつけた。炎が虫の体を包み込み、苦しげにうなり声をあげた。だが、その声はすぐに消えていった。
「なんだあの生き物は…」イシェは恐怖で声が震えた。
ラーンの顔色は蒼白だった。「ヴォルダン…あの塔を調査していたのはヴォルダンだ…」
イシェは彼の言葉を理解した。ヴォルダンの影は単なる噂ではなく、彼らの前に現れた現実だった。そして、それは彼らを深く暗い淵へと引きずり込むトリガーとなるのだった。