ラーンの豪快な笑い声がビレーの市場にこだました。イシェは眉間にしわを寄せながら、彼の背後に続くテルヘルの方を見る。
「本当にこれでいいのかしら？」
テルヘルの口調は冷ややかだった。彼女は、市場で賑やかに売買されている果物を見て、薄ら笑いを浮かべた。
「いいだろう。少しの楽しみも必要だ」
ラーンは、大きな骨付き肉を片手に、満面の笑顔で言った。イシェは、彼の無茶苦茶な性格に何度ため息をついたことか。だが、彼のこの楽しそうな姿を見ると、自分もどこか嬉しくなってしまった。
「でもね、テルヘル。今回は本当に危険らしいよ」
イシェは、ラーンの肩を軽く叩きながら言った。テルヘルは、イシェの言葉に頷き、鋭い視線で周囲を見回した。市場の人々の中に、ヴォルダンのスパイがいるかもしれない。彼女は常に警戒を怠らなかった。
「分かっているわ。準備は万端よ」
テルヘルは、小さな革袋から一枚の地図を取り出した。それは、遺跡の内部構造を示すものだった。ラーンとイシェは、地図に書かれた複雑な記号を興味深そうに眺めた。
「この遺跡には、ヴォルダンが欲しがっているものがあるらしい」
テルヘルは、地図を指さしながら言った。
「そして、それが何なのか…それは私たちが見つけ出す」
ラーンの目は輝き、イシェも緊張した表情で頷いた。彼らは、危険な遺跡に挑む覚悟を決めたのだ。
三人は、市場を後にし、夕暮れの光が差し込むビレーの郊外へと向かった。彼らには、希望と不安が入り混じった複雑な感情があった。そして、どこかキュートな緊張感も漂っていた。