ビレーの朝焼けは、いつもより少し薄く、空気が重かった。ラーンはいつものように、イシェを起こしに彼女の小さなアパートへ行った。イシェは目をこすりながら、ぼんやりとラーンの顔を見つめた。
「今日は何か違う気がする」
イシェの声はかすれ、いつもの活気を感じさせなかった。ラーンは軽く笑って、「大丈夫だ。今日は大穴が見つかるぞ!」と声を張り上げたが、自分の心にも不安がよぎった。昨日、テルヘルから持ちかけられた依頼は、いつもとは様子が違ったのだ。
遺跡の場所を告げる地図には、奇妙な記号が刻まれており、テルヘルの表情もどこか曇っていた。報酬はいつもの倍だが、何か裏があるような気がしてならなかった。「ヴォルダンとの関係か...」ラーンは考えを深めようとしたが、イシェの冷たい視線に言葉を飲み込んだ。
遺跡へ向かう道中、いつも感じられる活気や鳥のさえずりはどこか薄れ、静寂が広がっていた。空には雲一つないのに、日差しが不自然なほど強く、ラーンの肌を刺すように感じた。イシェは黙々と歩き、時折、不安げに周囲を見回していた。
遺跡入り口に着くと、いつもより深い影が立ちこめており、不気味な静けさに包まれていた。ラーンは剣を握りしめ、イシェと互いに頷き合った。テルヘルは地図を広げ、複雑な表情で遺跡の構造を説明し始めた。彼女の目は、どこか遠くを見つめているようだった。
遺跡内部は、いつもとは違う不穏な雰囲気に包まれていた。壁には奇妙な模様が刻まれ、床からは冷たい風が吹き上がっていた。ラーンはイシェと二人三脚で進んでいくが、足取りが重く、背筋に寒気が走った。
そしてついに、彼らは巨大な部屋の前にたどり着いた。部屋の中央には、脈打つようにゆらめく光を放つ水晶が鎮座していた。その光景は美しくも不気味であり、ラーンとイシェの心を強く揺さぶった。
テルヘルは水晶に向かってゆっくりと歩み寄り、手を伸ばした。「これこそ...」彼女はつぶやいたが、その言葉は途中で途絶えた。水晶からは、今までに感じたことのない強力なエネルギーが放たれ、部屋全体を満たし始めた。ラーンとイシェは思わず目を閉じ、激しい光と熱気に襲われた。
そして、静寂が訪れた。彼らはゆっくりと目を覚まし、周囲を見回した。水晶は消え、部屋の中は以前と同じように静かだった。テルヘルの姿はなく、残されたのは、地面に落ちた彼女の剣だけだった。
ラーンとイシェは互いに顔を見合わせた。彼らの心には、何かが大きく変わったのを感じることができた。それは、希望なのか、絶望なのか、あるいは... 揺らぎを続ける未来への入り口だったのか。