朝の光がビレーの街に差し込む頃、ラーンはいつものようにイシェを起こすために彼女のベッドに飛び乗った。「おーい、起きてよ、イシェ!今日は大穴が見つかる予感しかしない!」
イシェは眠そうに目をこすり、「またそんなこと言うの? ラーン、まだ夜明けもしてないし…」と呟きながらも、ゆっくり起き上がった。彼女は小さなテーブルに置かれた水筒から水を口にした。「テルヘルはいつ来るんだっけ?」
「あと1時間くらいかな。今日はあの遺跡に行くって決めたよね?」
ラーンがそう言うと、イシェは小さくため息をついた。あの遺跡は危険な場所として知られており、過去にも何人もの探索者が命を落としたという噂があった。しかし、ラーンのような冒険好きな人間には、そんな危険も魅力的に映るようだ。
「準備はいいか?」テルヘルが彼らの住処の入り口に姿を現した時、イシェはそう尋ねた。テルヘルはいつも通り、黒いマントを身にまとい、鋭い視線で周囲を見回していた。「準備は万端だ。今日は特に慎重に進もう。」
ビレーの外れにある遺跡へ向かう途中、ラーンの足取りは軽やかだった。彼は遺跡探検が大好きだったし、テルヘルに雇われて高額な報酬を得られるのも嬉しかった。しかし、イシェはいつも彼の背後で静かに歩き、常に周囲の状況を警戒していた。彼女はラーンの無謀さに内心呆れていたが、彼と一緒にいると何かあった時に落ち着いて判断できるようになり、それは彼女自身にとっても安心感につながっていた。
遺跡の入り口に近づくと、冷たい風が吹き付け、不気味な影が揺らめいた。「ここは確かに危険だ…」イシェは呟いた。ラーンは気にせず、遺跡の中へと進んでいった。テルヘルは彼をじっと見つめ、その後ろをイシェが続くように指示した。
遺跡内部は暗く湿った場所で、天井からは鍾乳石が垂れ下がっていた。足元には滑りやすい石畳が広がり、至るところに崩れそうな壁があった。ラーンは懐中電灯の光を振り回し、周囲を探しながら進んでいった。イシェは彼に注意深くついていき、テルヘルは二人を常に監視していた。
突然、ラーンの足元に石が転がり落ちた。「何だ?」ラーンは驚いて振り返ったが、何もない。しかし、その瞬間、床から黒い影が伸び上がり、ラーンを包み込んだ。
「ラーン!」イシェは大声で叫んだ。テルヘルは素早く剣を抜いて影に襲いかかったが、影は素早く動き、テルヘルの攻撃をかわした。イシェは恐怖を感じながらも、冷静に状況判断をした。
「ラーンの足元から何かが出ている! イシェ、気をつけろ!」テルヘルが叫んだ。イシェはラーンを助けようと近づこうとしたが、影は再びラーンを包み込み、彼を地面へと引きずり込んだ。
「ラーーン!」イシェとテルヘルは同時に駆け寄ったが、影はすでにラーンの姿を見失わせていた。その場に残されたのは、ラーンの懐中電灯の光だけが、暗闇の中に弱々しく輝いていた…。