ラーンの大雑把な指示に従い、イシェは薄暗い洞窟の奥深くへ進んだ。壁一面に描かれた古びた文字が、かすかな光で浮かび上がる。
「何か分かるか？」
ラーンの問いかけに、イシェは首を横に振る。「意味不明だ。こんな複雑な記号を見たことがない」
テルヘルは後ろから近寄ってきた。「この遺跡はヴォルダン軍が最初に調査した場所だ。記録によると、強力な魔力が眠っているらしい」
彼女の言葉にラーンは興奮気味に剣を構えた。「よし！それなら大穴が見つかるかもな！」
イシェは不安を覚える。テルヘルの目的は遺跡の調査ではなく、ヴォルダンへの復讐にあると彼女は感じていた。この遺跡が本当に危険な場所だとしたら、ラーンの無謀な行動は大きなリスクになる。
「ちょっと待った方がいいんじゃないか？」
イシェの声に、ラーンは不機嫌な顔で振り返った。「何だ？怖いのか？」
「いいえ、違うけど…」
イシェは言葉を濁した。だが、ラーンの目はすでに洞窟の奥へと向けられており、彼女の言葉は届いていないようだった。テルヘルは冷ややかな笑みを浮かべていた。
「さあ、進もう」とテルヘルが言うと、ラーンは先導するように歩き始めた。イシェはためらいながらも後を追う。
洞窟の奥深くでは、不気味な音がこだましていた。イシェは背筋を凍らすような予感を覚える。
「やめて…」
その瞬間、床が崩れ、ラーンは深い奈落に落ちていった。
「ラーン！」
イシェは叫んだが、ラーンの姿はもう見えなかった。テルヘルは冷静な表情で言った。
「仕方ない。彼の運命だ」
イシェは絶望感に襲われた。ラーンの無謀さに巻き込まれ、大切な仲間を失ってしまうかもしれない。そして、この遺跡の奥には、さらに恐ろしい秘密が隠されているのではないかと彼女は思った。