ラーンの重い足音が石畳を叩きながらビレーの広場を横切った。イシェは小さく溜息をつき、後からついて行った。朝の光がまだ薄暗く、空には灰色がかった雲が重く垂れ下がっていた。
「今日はどこに行くんだ?」
イシェの声にラーンは振り返らず、「いつもの遺跡だ」と答えた。彼の顔は太陽の光を浴びて、少しばかり明るくなっていた。
「また大穴か?」
イシェの視線はラーンの背中に向けられたままだった。彼の肩越しに、遠くでテルヘルが待っているのが見えた。
「ああ、必ずいる」
ラーンはそう言って、歩き始めた。イシェは小さく頷き、彼の後を続けた。
遺跡への道は険しかった。急な階段と崩れかけた石畳が続く。ラーンの足取りは軽いが、イシェは息切れしながらゆっくりと登っていく。
「待てよ」
イシェは立ち止まり、息を整えた。「少し休もう」
ラーンは振り返り、イシェの顔を見た。「まだだぞ」
「でも…」
イシェは言葉を濁した。彼の視線は、遠くの谷底に注がれていた。谷底には霧が立ち込めていて、何も見えなかった。
「大丈夫だ」
ラーンの声が響いた。イシェはゆっくりと頷き、歩き始めた。
遺跡の入り口では、テルヘルが待っていた。彼女は黒いローブを身にまといており、顔色は険しかった。
「遅かったな」
テルヘルはそう言った。彼女の目は鋭く、イシェの動きを一点に集中させているようだった。
「準備はいいか?」
ラーンの声は少しだけ震えていた。イシェはまばたきをした。彼の心には不安がよぎっていた。
「ああ」
イシェは小さく言った。そして、遺跡へと足を踏み入れた。