ビレーの喧騒を背に、ラーンはイシェに声をかけた。「今日はあの遺跡だな。テルヘルが言ってた、あの『眠れる王』の伝説がある場所だそうだ。」
イシェは眉間に皺を寄せた。「また大穴の話か? そんなものはただの作り話だろう。」
「いやいや、今回は違うって!テルヘルも本気だって言ってたんだぞ。」ラーンは目を輝かせた。
イシェはため息をついた。「いつもそう言うじゃないか。それに、あの遺跡は危険だって聞いたことがある。罠がいっぱい仕掛けられてるとか。」
「そんなの怖くないよ!」ラーンの顔は自信に満ちていた。剣を手にすると、ビレーの街並みを振り返り、「さあ、イシェ!大穴を探しに出かけようぜ!」と叫んだ。
イシェは小さくため息をつきながら、ラーンの後についていった。彼らの足取りは軽快で、辺境の街から離れるにつれて、周囲の景色はだんだん荒涼としていった。
遺跡の入り口に近づくと、見慣れない鳥が数羽、空を飛び交っていた。イシェは不安そうに言った。「なんか変だぞ、ラーン。鳥がこんな場所に…」
ラーンの表情も少し曇った。「ああ、確かに…何か不吉な感じがするな。」
二人は互いに顔を見合わせて、緊張した空気の中を進んでいった。遺跡の入り口には石碑があり、そこに奇妙な文字が刻まれていた。イシェは石碑を指さして言った「この文字…見たことあるような…」
ラーンの視線は石碑から離れず、何かを察知したようだった。「イシェ、ちょっと待て。」
その時、石碑の影から何かが飛び出してきた。それは巨大な蜘蛛で、鋭い牙を剥き出しにして二人に襲いかかった。ラーンは剣を抜き、素早く蜘蛛をかわしながら攻撃を加えた。しかし、蜘蛛の体は硬く、剣が通じない。イシェは驚いて後ずさりしたが、足を滑らせバランスを崩した。
その時、ラーンの背後から影が伸び、蜘蛛に飛びかかった。それはテルヘルだった。彼女は短刀を振り下ろし、蜘蛛の体を貫いた。蜘蛛は苦しみながら地面に倒れ込んだ。
テルヘルは息を切らしながら言った。「危なかったな。二人とも無事でよかった。」
ラーンは深く頭を下げた。「助けてくれてありがとう、テルヘル。本当に助かったよ。」
イシェも「ありがとう」と感謝の言葉を述べた。
テルヘルは石碑を見つめながら言った。「この遺跡には危険がいっぱいだ。気をつけろ。」
ラーンの顔は少し曇っていたが、すぐにいつもの笑顔を取り戻した。「大丈夫だ!僕たちに大穴があるはず!」と叫び、遺跡の中へと入っていった。イシェはテルヘルに不安げな視線を投げかけたが、テルヘルはただ黙って遺跡の奥へと続く道を歩み始めた。