ビレーの薄暗い酒場で、ラーンが豪快に笑っていた。「またしても大穴を見つけたぞ！イシェ、お前も見てみろこの輝きを！」
イシェはラーンの肩越しに、テーブルに置かれた石を見つめた。確かに珍しい鉱石だったが、大穴とは程遠いものだった。イシェの眉間に皺が寄った。「ラーン、またその夢を見るな。あの石はただの石だ。」
「ただの石か！」ラーンは立ち上がり、テーブルを叩いた。「お前にはわからない！いつか必ず大穴を見つけるんだ。俺たちの未来はそこにしかない！」
イシェはため息をつき、酒を口にした。「未来？ラーンの未来は、いつもこの酒場にいるんじゃないのか？」
その時、扉が開き、テルヘルが店内に入ってきた。彼女の鋭い視線は、ラーンとイシェに留まった。「準備はいいか？」
ラーンは興奮したように立ち上がった。「もちろんだ！テルヘルさん、今日は必ず何か面白いものが見つかるぞ！」
イシェはテルヘルの冷たい視線を感じながら、小さく頷いた。
遺跡の入り口に着くと、ラーンの無茶な行動にイシェは何度もため息をついた。テルヘルは冷静に周囲を警戒し、地図を片手に指示を出していた。しかし、今日の遺跡はいつもと様子が違った。迷路のような通路が複雑に張り巡らされ、壁には奇妙な文字が刻まれていた。
「これは…何か変だ…」イシェは不安げに呟いた。
「何だ、その顔？」ラーンは軽やかに笑い飛ばした。「きっとまた大穴が見つかるぞ！」
深く続く通路を進むにつれて、遺跡の空気が重くなっていった。壁から滲み出る湿気と、かすかに漂う腐った臭い。イシェは不吉な予感がした。
突然、ラーンが立ち止まった。「なんだ？何かあったのか？」イシェが尋ねると、ラーンは顔色を変えて言った。「…この石…」
ラーンの指先から、奇妙な光を放つ石が輝いていた。それは、まるで生きているかのように脈打っていた。
「これは…」テルヘルは目を丸くした。「これは…禁断の石だ！」
その時、壁から糸のような影が伸び出し、ラーンに絡みつく。ラーンの悲鳴が響き渡った。イシェは驚きと恐怖で体が硬直する中、テルヘルは冷静に剣を抜き、影を切り裂いた。しかし、影は消えずに、イシェにも絡みついてきた。
「ああ…！」イシェは抵抗しようとしたが、影は彼女の体を締め付け、意識を奪っていくように感じた。
その時、イシェの頭の中に、一つだけ鮮明なイメージが浮かんだ。それは、ラーンとテルヘルが必死に抵抗する姿だった。そして、その背後から伸びる、ほつれのような黒い影。
「ラーン…」イシェはかすかに声を絞り出した。「逃げて…」