ビレーの酒場にはいつもより活気がなかった。ラーンがいつものように大杯を傾けながら、イシェに向かって言った。「なあ、イシェ、この街、なんか息苦しいと思わないか?」 イシェは眉をひそめて静かに頷いた。
「最近、遺跡探索の依頼が少ない気がする。ヴォルダンとの国境騒ぎで、みんな不安げな様子だ」 ラーンは酒をぐっと飲み干して、テーブルを叩いた。「俺たちには関係ない!俺たちは遺跡に財宝を求める探検家だ!政治なんて気にすんな!」 ラーンの豪快な言葉に、イシェは苦笑した。
「そうは言っても、安全が保障されないなら誰も雇ってくれないわ。それに、最近は遺跡から戻っても、何か不気味なものを感じるの。まるで、何かがほころびていくような…」 イシェの言葉が途切れた時、扉が開き、テルヘルが入ってきた。「準備はいいか?今日は大物を狙うぞ」。テルヘルの鋭い視線に、ラーンとイシェは小さく頷いた。
廃墟となった古代都市跡。崩れかけた石造りの階段を登りながら、イシェは不吉な予感に襲われた。いつもならラーンの明るい声が響いていたはずだが、今日はどこか沈黙していた。テルヘルだけが、目的意識の強さを感じさせる足取りで先頭を歩いている。「ここだ」。テルヘルが指差す場所に、巨大な石扉があった。
扉には複雑な模様が刻まれており、わずかにひびが入っていた。まるで、何かを隠しているかのように…。「この扉を開けば、大発見があるはずだ」。テルヘルの声に、ラーンは少しだけ興奮を覚えた。しかしイシェは不安を感じた。「何か変だ…このほころびが…」 イシェの言葉は風に乗って消え、ラーンの剣が扉の隙間にはまり始めた。扉がゆっくりと開くにつれ、内部から冷たい風が吹き出し、奇妙な光が漏れてきた。
「さあ、行こう」。テルヘルの声が響き渡った時、イシェは背筋を戦慄させた。この遺跡から、何か邪悪なものが出てくるような気がしたのだ。